報道記者からまんが編集者に異例の転身
白泉社に入社する前は、テレビ局で4年半ほど記者をしていました。取材している中で、生きづらさを抱える人たちが生きるために心の健康が大事だと感じることが多く、エンタメの大切さに気付いたんです。そこで昔から好きだったまんがの編集者という仕事が頭に浮かんだ。フィクションの明るいラブコメやギャグのキャラクターから学ぶことって意外と多い。そっちのほうが大切なことって伝わるんじゃないかなと思ったんです。エッチなまんがかと思ったら、いつの間にかめちゃくちゃ泣かされてるみたいな。『ヤングアニマル』はそういうまんがが作れる雑誌だなと思って、ここで青年まんがを作りたいと強く思いました。
が、入って初めての仕事は懸賞商品の買い出しでした(笑) どんな商品が今ウケているのか考えて、秋葉原まで買いに行って持ち帰って。こんなところまで全部自分でやるんだと驚きつつ、楽しくもありました。まんが編集の仕事として全然想定していなかった。次号柱作りとか、懸賞をWEBから応募するサイトの中身を差し替える作業なんかもありますが、そういうのも自分でやるのかと衝撃でしたね。
思い出深い初仕事がもう1つ。テレビ番組でお笑い芸人さんの原作をまんがにする企画で、担当作家の稲葉そーへーさんが作画をするので一緒にやったのですが、個室ビデオを題材にした作品なのに僕も先生も行ったことがないから行ってみようと。その取材を『ヤングアニマル』で記事にしたんです。個室ビデオってエッチなイメージあると思うんですけど、あんなに硬い取材をしていた人間の最初の記事がこれかと(笑) 記者経験も大いに発揮したし、前職の皆もめちゃくちゃ笑ってくれて。そういうのも雑誌ならではの楽しい部分ですね。
読者に受け入れられた瞬間が一番の醍醐味
現在、自分の担当作家さんは前担当から引き継いだ方も、持ち込みから担当した方もいらっしゃいます。『ペンと手錠と事実婚』の椹木伸一さん、ガス山タンクさんは、同じ時期に持ち込みを受けて担当することになりました。椹木さんはミステリーが好きで、題材にしたいと仰っていて。ミステリーだけで勝負するのは怖いなと思ったので、中年がこんなすごい女子高生に言い寄られたら読者は嬉しいんじゃないか、みたいなところを詰めて今の形になりました。
トリック面については椹木先生の技が光るところなので、基本的には先生にお任せしています。ただ、ミステリーをやりながらラブコメを進めていかねばならないので、なるべくトリックを簡略化したり、先に提示しておくべき証拠が描かれているか、行ったり来たりしながらネームを直したりと、ネームや作画のチェックには時間と労力をかけています。記者時代に警察の夜間当直に取材に行っていたことは、ヒロインが夜間当直をする主人公を訪ねてくるシーンのアドバイスに役立ちました。
編集の仕事をしていて一番楽しいのは、アンケートが来た時ですね。作家さんと2人で五里霧中でやっていたところで、初めて読者が認めてくれた瞬間がアンケート結果が出た時。『ペンと手錠と事実婚』の第1話は新人作品としては前代未聞なくらいアンケート上位に食い込んでいました。たくさんのレジェンド作品を読む読者さんが多い中で、その方たちに受け入れられたのがすごく嬉しかった。醍醐味だなと思ったし、そこが結構潮目だったなと思います。
色んなニーズに合わせられるオールマイティーな編集者に
編集部内では少人数体制の色んなチームがあって、僕はウェブトゥーンのチームで今2作準備中。プロの作家さんにお声がけする時、SNSでめちゃくちゃ気持ちを込めたDM送るんですよ(笑) お忙しいのでお返事をくれない方も多いですが、「あなたのメールには心が動きました」ってお返事をくれて始まった方もいて。恥ずかしがらずに熱意を伝えて良かったなと思います。
ヤングアニマル編集部にいる編集者たちも本当に色んなタイプの方々です。それぞれ違うところで皆オンリーワンな個性があるので、すごく強い。僕は何かイイトコドリできたらなと思っています。自分の経験も雑多だし、性格や好み的にも何でも好き。だからこそ、色んな作家さんの色んなニーズに合わせられるタイプの編集者になれそうな予感がしていて。そこを突き詰めてオールマイティーに一緒に仕事ができる編集者になれればと思っています。
白泉社は小回りが利く会社だからっていうのもありますけど、本当に何でも許してくれるし自由。自分のやりたいことに理由と他人を納得させるものがあれば、ちゃんと採用してくれる。それぞれの情熱やパワーに頼って全部任せてくれるので、すごくいい会社だなと思っています。