先輩社員に聞くリアルな現場の「おもしろさ」

グラビアから絵本まで。振り切れたキャリアと雑誌づくり。
青年誌のグラビア担当を経て、絵本情報誌の編集長に。


今は『MOE』の編集長を務めていますが、入社してから15年間は『ヤングアニマル』編集部に在籍していました。そのうち14年間はグラビアも担当。このグラビアの仕事を通じて、僕は作家さんとはまた違う領域のプロフェッショナルな方たちと仕事をする雑誌づくりの手順を学びました。

いちばんよかったと思うのは、写真の使い方ですね。『ヤングアニマル』のグラビアはどれだけエロく見せられるかを意識して写真をセレクトして、強烈なインパクトを残せる誌面を意識していました。おそらく年間で平均50本、トータル600本以上のグラビアを担当してきたんじゃないかな。グラビアに関しては自分なりの理論に従って臨んでいました。僕自身はアイドルオタクではなく、一般男子が好むものを客観的に分析していたんです。ある意味、一歩引いた目線だったからこそ、ひとつのコンテンツとして最適な見せ方を追求できたんだと思います。

僕は絵本編集者としての経験がまったくない状態で『MOE』の編集長になりました。『MOE』は絵本専門誌ではなく、絵本が好きな読者に対して、絵本の世界観とその周辺のモノ・コトを含めて伝える情報誌なんです。僕は既存の読者を大切にしながら、一般の人たちにも読んでほしい、という気持ちが強かった。その想いが強く表れたのが、のんさんや満島ひかりさんを起用した表紙です。タレントを起用した表紙は売上以上にある目的を達成しました。それは何かといえば、テレビやラジオからの取材がすごく増えたということです。

編集部のスタッフは僕よりも詳しい人たちばかりなので、僕自身が『MOE』の特集作りを担当することは滅多にありません。僕が『MOE』に貢献できることのひとつとしては、他のメディアの力も借りて絵本の素晴らしさを発信することだと考えています。雑誌の宣伝と絵本を広めるための足がかりになると思うので、テレビやラジオ等の出演の機会があれば、積極的に出るようにしていますね。

僕がおもしろいと思える雑誌づくりを。

僕がつねに意識しているのは、読者に寄り添いつつ、何か新しいことで新規の読者を獲得することができないかということ。
言い換えれば、間口は広く、情報は深くというスタンスなんです。

『MOE』は毎号異なるテーマを扱っていて、表紙を並べてみると一括りにできないバラエティさに富んでいます。実は『MOE』編集部の白泉社の社員は僕と副編集長だけなんですよ。スタッフの中には30年以上も『MOE』をつくり続けているベテラン編集者がいますし、その他のスタッフも児童書、北欧などの得意分野を持っています。僕にとっては新しい発見の連続です。
エドワード・ゴーリーも名前ぐらいしか知らなかったですし、他にも読み込んだことのないものばかり。つねに新しい世界を体験させてくれる。その存在が『MOE』なんですね。だからこそ、僕がおもしろいと思える雑誌づくりを目指しています。

『MOE』の雑誌づくりは自社コンテンツでないものを、たくさん紹介していることが大きな特徴ですね。まんが雑誌は自分たちの連載を掲載していますが、『MOE』は取材記事や版権関係のコンテンツも多く扱っています。特に版権を使わせていただくための交渉はワンランク難しいですし、例えば「不思議の国のアリス」を特集する場合、原作を読み込んでいることは当たり前ですが、原作を研究している本も読み込んでいないと特集をつくれません。そして、そこから派生するコンテンツも考えなければならないから、雑誌づくりとしてはちょっと高度な印象があります。

一つひとつの企画をカタチにするのは難しく、時間がかかりますが、編集者としてはすごくやりがいに満ちています。たとえば、根強い人気の「ムーミン」の特集をやるにしても、これまでにいろいろな切り口で何回も企画してきたわけです。
そうなると、次の企画を考える際どうすべきかわからなくなってくる。そんなときに方針を提言するのが僕の役割だと思っています。

「正直なランキング」を発表して、絵本界を盛り上げ続ける。

『MOE』でもっとも人気がある企画の1つが、毎年発行される「MOE絵本屋さん大賞」の号です。『MOE』は「MOE絵本屋さん大賞」を12回開催していますが、最初はすごく小さい賞でした。それこそ白泉社の会議室で贈賞式を開催していた規模からスタートしていて。当時の僕はこの賞があること自体を知りませんでしたからね(苦笑)。やがて立派なホテルに会場を移して贈賞式を開催するようになりました。

「MOE絵本屋さん大賞」は、全国の書店さんからアンケートを集計して、その順位どおりに年間ランキングを発表しています。白泉社の絵本がランクインしないことも多いですし、編集部に入る前の僕は正直なところ、この賞をやる意味はあるのかとさえ思っていました。ただ、『MOE』は雑誌の意義として、絵本をみんなに読んでもらいたいという想いがあるんですね。子どもの読み物でありながら、大人にとっては芸術的な側面もある。そんな多面的な魅力を秘めた絵本を気軽に読むきっかけを与えられる雑誌でありたいと考えていて。

絵本は売れ方が特殊で、何年も前に出版されたロングセラー作品の多くが現役で売れ続けています。そんな状況でも新しい絵本は毎年生まれ続けていて、そこで「MOE絵本屋さん大賞」は、新しい絵本にもこんな素晴らしい絵本があるということをランキング形式でわかりやすく伝えている。すごく意義のある賞を企画して、絵本界を盛り上げることに一役買っているという自負を持つようになりました。

僕は10年後に55歳になっていますが、その頃には何をやっているんでしょうね。絵本作家と編集者の年齢が高いことを考えると、僕も編集者として絵本をつくっているのかもしれません。思えば、僕のキャリアは青年誌のグラビア担当から始まって、コンテンツビジネス部で広告営業を経験して、絵本のある暮らしを提案する雑誌の編集長にたどり着きました。ここまで振り切れたキャリアが成立するって想像できるわけないですよ(笑)。でも、それって白泉社にしかないおもしろさなんだと思います。

私の仕事はつねに新しいことと出会えることがおもしろい。