永島隆行の告白 永島隆行の告白

白泉社はまんが作りに強みを持つ出版社であり、バラエティ豊かなまんが雑誌を刊行しています。たとえば『ヤングアニマル』と『花とゆめ』は全く異なる雑誌のカラーを持っていますが、どちらも経験できるのは白泉社ならではのキャリア。現在はヤングアニマルの編集長を務める永島隆行は、両分野においてヒット作をつくってきました。ジャンルを横断してきたユニークなキャリアは、39歳の若さで編集長に就任した永島の唯一無二の青年まんが誌づくりに生かされています。

おもしろいことを発信するならば、
『ヤングアニマル』は最高のメディア。

おもしろいことを発信するならば、『ヤングアニマル』は最高のメディア。

もともと、まんが専門で仕事をしたかったわけではないんです。僕が入社したかったのは出版社かテレビ局。白泉社に入社したのも、当時あった『CANDy』というローティーンファッション誌の編集者になりたかったから。まんがは好きだったけど、どちらかと言えば、雑誌をつくりたかったんですね。今と違って、SNSなんてありませんでしたし、自分がおもしろいと思うものを広く発信する方法はテレビか雑誌しかないなと思っていたんです。

ところが、入社後に配属されたのは『ヤングアニマル』編集部でした。『CANDy』に携われないことにがっかりしましたけど、『CANDy』は2年後くらいに休刊になってしまったんですよ(苦笑)。『ヤングアニマル』はもちろん「ベルセルク」や「ホーリーランド」は読んでいました。最初はまんがに自分がどうやって関わるのかはイメージできなくて、自分の文章が載るという些細な喜びを満たせることに期待していたんですね。読者ページのように自由なページで書かせてもらったり、トビラ(まんがの表紙)のリード(見出し文)を考えることもすごく楽しかったですし、やりたいことができているなという実感は得られていました。雑誌への貢献度は低かったかもしれないけど(笑)。


今でも『ヤングアニマル』編集部には楽しいことをやっていこうという空気が漂っています。仕事中にテレビを見たり、まんがを読んだりするのは当たり前の風景。編集者同士でおもしろいと思うことを話し合って、そこから生まれたものが企画になっていきやすいんですね。

今だからわかってきましたが、編集の仕事って基本的には「なんでも屋」だと思うんですよ。まんがを描くのは作家さん。僕らは何をするのかといえば、作家さんにアイデアを出すこと、作家さんが仕事をしやすい環境をつくることなんです。取材に行くこともそう。やりたいと思う記事を形にすることも自分たちの仕事なので、その日から編集者としてやっていけると思うんです。自由だからこそ、やりたいことがある人にとっては、いろいろなことを形にできて楽しい仕事だと思います。飽きるはずがないというか。昨日観た映画のおもしろかった所をまんがに生かせるかもしれないし、憧れのミュージシャンにインタビューできるかもしれない。僕はすごくミーハーだったので、その気持ちを満たせることは大きなやりがいでした。

ミュージシャンに会いたい、音楽と関わりたいという気持ちは「デトロイト・メタル・シティ」を担当していた時期に強かったかもしれませんね。まんがが少しずつ話題になってきたときに、当時タワーレコードで作品のオリジナルTシャツをつくるというコラボレーション企画を形にしたんです。さらに実写映画化されたときに、KISSのメンバーであるジーン・シモンズに会えたことはとびっきりの宝物ですね。自分の興味関心とまんがを売るためのアイデアを結びつける。それさえできれば自由に動くことができますし、特に『ヤングアニマル』はジャンルレスなので、グラビアでもやりたいことを形にできるかもしれません。おもしろいことを発信したいならば、『ヤングアニマル』は最高のメディアですよ。

ヤングアニマル表紙

自然と笑えれば、涙もこぼれる。

入社して9年間、『ヤングアニマル』の編集者として仕事をして、はじめて他の部署に異動することになりました。新しい編集部は『花とゆめ』編集部。当時の僕は煮詰まっていた部分もあったので、少女まんが誌への異動をポジティブに捉えることができました。とはいえ、少女まんがを読んでいたわけではなかったので、同じまんがであっても不安でした。

『花とゆめ』編集部時代でも変わらず意識したのは、作家さんと自分がおもしろいと思うことについて話し合うことです。それは当時担当していた福山リョウコ先生の「覆面系ノイズ」にも表れていますね。僕は福山先生の片想いをテーマにした作品を読みたいなと思ったんです。福山先生は楽しくコメディチックに読める部分もあれば、すごく切ないドラマも描けるので、キャラクター造形が非常に上手い方なんです。片想いは色々な人が人生で一度は経験しているし、多くの人に共感してもらえるため、それを題材にするのがおもしろいんじゃないかと思いました。

「デトロイト・メタル・シティ」も「覆面系ノイズ」も音楽モノですが、まんがは音が出せないから難しい作品なんですね。大切なのは、音楽にどういう味付けをするのか。「デトロイト・メタル・シティ」の場合はギャグであり、「覆面系ノイズ」は恋愛ドラマの感情が昂ったところで音楽を絡めるという演出でした。一緒にまんがをつくっていても腹の底から笑っていましたし、自然と涙がこぼれることもありました。いろいろな要素が噛み合ったからこそ、どちらもヒットしたんだと思いますね。

自然と笑えれば、涙もこぼれる。
漫画2冊の表紙

「読み応え」は
作家と編集にしかつくれない。

「読み応え」は作家と編集にしかつくれない。
漫画2冊の表紙

僕が思うに、福山リョウコ先生の良さはたくさんありますが特に二つ。ひとつは恋愛ものをつくる上手さであり、もうひとつはドラマ性です。「覆面系ノイズ」では登場人物の恋愛だけでなく、別軸にある親とのストーリーが泣けたりするんですね。

ただ少女まんがでは、そこに特化していくのは難しいのかもしれません。やっぱり恋愛を楽しみたいという読者が多いので。そこで『ヤングアニマル』ならば、福山先生のドラマ性を生かせると思いました。僕が副編集長として『ヤングアニマル』編集部に戻ってからも福山先生とは交流があって。直接、新作のお話を聞いたことがきっかけで、『ヤングアニマル ZERO』での「聴けない夜は亡い」の連載につながっていったんですね。編集者にとって、作家さんとの付き合いは財産だと思うんです。すぐに電話してお話しできることは大きな宝。お互いリスペクトし合える関係だと、会話もさらに弾みますから。

2018年からは『ヤングアニマル』の編集長を任されていますが、入社当時はヒット作をつくりたい気持ちが強かったので、編集長になることはあまり考えていませんでした。ただ、誰でもなれるわけではないので素直に嬉しかったですね。しかも、自分が最初に配属された雑誌の編集長ということもあったので。

編集長の目標として自分色に染められる雑誌をつくりたいですが、まずは骨太な作品をつくりたいと思っています。単純に売れるのではなく、現場の編集者が思うおもしろさを押し出したものをつくっていきたいんですね。

『ヤングアニマル』は「ベルセルク」と「ふたりエッチ」という毛色の違う作品が掲載されていますが、そこに「3月のライオン」を始め多様な作品が加わってきています。そのすべてに共通しているのは、これがおもしろいという視点から作品を発信しているということ。作品の読み応えは作家と編集にしかつくれないものなんです。今、『ヤングアニマル』では宇宙人の子どもを育てる作品を連載していますが、担当編集は入社時に絵本雑誌の『MOE』志望で子どもの面倒見がよかったので、その人が提案する作品ならば、伸びしろがあるはずだと思っています。そういう具合に、自分の担当以外の作品を俯瞰できるようになったのは編集長になってからですね。編集者の得意・不得意がようやく見えてきたので、フィードバックしていくようにしています。

『ヤングアニマル』が目指すのは、いい意味でカオスな雑誌です。新入社員や投稿者さんから「どうすればウケやすいんですか?」と聞かれることもありますが、まずは自分がおもしろいと思うものをやってほしいんです。若いうちは初期衝動が強いので、おもしろい作品をつくれる可能性が高いと思うんですよ。若い人たちの強さは雑誌の強さに直結しますし、編集長の僕でも作品がハズレることはあるんだから、平等な環境で失敗を恐れずにチャレンジしてほしいですね。僕は自分が人生のどこかで編集畑から離れていくときに「果たしてやりたいことができたのか?」と後悔しないために動くようにしています。

上手に遊んで、僕をおもしろいと思わせてほしい。

あなたに告白したいこと。

これが私の告白

まんが好きな人が入社するとは思いますが、僕は日頃から遊ぶことが大事だと伝えたいですね。文字どおり、なんでもいいんですよ。映画を見にいく。友達と飲みにいく。おもしろいこと探しのために、スマホゲームやギャンブルにのめり込んでもいい。そこであなたが感じるおもしろいという感情は間違いないものなので、それをうまくまんがに生かすために好きなだけ遊んでほしいんですね。それがあれば作家さんとの話も盛り上がりますし、話のストックがいっぱいあることに越したことはありません。「このおもしろさをわからせたい」という気持ちがあって、上手に遊べる人と一緒に働きたいですね。

『ヤングアニマル』では、昨日おもしろいと思ったことをすぐに形にできます。そのためにも、心が動いた気持ちを大事にしてください。あなたが思うおもしろさをアピールして、僕をおもしろいと思わせてほしい。その延長線上にあるのがまんがであり、人を楽しませることなんです。

道に迷い大遅刻と架空の記事づくり!?

グラビア撮影に遅刻したことがあります。しかもサイパンロケの飛行機に(苦笑)。羽田空港に向かったのですが、行き方を間違えてしまいまして。その日はたまたまモデルさんも諸事情で遅刻してしまったようで、結局皆で1本後の飛行機に乗ることができました。

もうひとつ、『ヤングアニマル』であかほりさとる先生の対談記事を連載していたのですが、毎回適当なテーマで対談してもらうという、ざっくりとした内容だったんです。僕があかほり先生特有の考え方や口調が好きでやっていた対談企画なんですけど、あまりにも好き放題にやっていたので進行がルーズになってきて。さすがに先生の都合がつかなかった事があったんです。そのときだけは先生と先方が了承の上で、先生がいる設定で対談記事を書きました。対談相手の方にインタビューして、それに対するリアクションを僕が先生風に乗り切るという。先生とシンクロしている自信があったので、我ながら完璧なリアクションが出来ました。もちろん後ほどしっかり先生にチェックしていただいた上で掲載しました。
どちらも、スケジュールは大切だよ、という教訓ですね(苦笑)。