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イベント・特典情報

イベント

花とゆめ50周年記念! お賽銭のご利益ください!新旧BL対談 『パタリロ!』『翔んで埼玉』著者・魔夜峰央先生× 『ザ―フィラ殿下と黒と白』著者・もといも先生

2023.12.20

2024年5月で雑誌「花とゆめ」は創刊50周年!

今年画業50周年を迎えた魔夜峰央先生と、現在「花とゆめ」で『ザーフィラ陛下と黒と白』を好評連載中のもといも先生の初対談! 大先輩を前に緊張しきりのもといも先生に、魔夜先生がまんが稼業の極意を伝授する!?

花とゆめ2号(販売期間:2023年12月20日~2024年1月3日)にも対談記事を掲載します!

https://www.hanayume.com/

 

パタリロ!

魔夜峰央先生が「花とゆめ」で1978年~連載していたレジェンドまんが!マリネラの国王・パタリロ殿下を中心に、美少年キラー・バンコランや美少年・マライヒなど個性的すぎるキャラたちが大活躍!HC1~104巻発売中!

https://www.hakusensha.co.jp/comicslist/63447/

 

ザーフィラ陛下と黒と白

11歳で即位した少女陛下ザーフィラが、同性叔父カップルに愛されながら立派な王様を目指す異色の少女まんが。HC1・2巻絶賛発売中!

https://www.hakusensha.co.jp/comicslist/68211/

 

対談のきっかけは「黄金のパタリロ像」

──今回の対談は、もといも先生がXにされた『パタリロ!』に関する投稿をきっかけに実現したものなんですよね。

きっかけになったもといも先生のポスト。

 

もといも(以下「もと」):白泉社におじゃましたとき、エントランスに「金のパタリロ殿下像」とお賽銭箱があったんです。そのときに、私と受付の方の間で

「お賽銭を入れてもいいですか?」

「いいですが、ご利益はないと思いますよ……?」

というやりとりがありまして(笑)。パタリロ殿下にお賽銭できるというのが、ご利益がないとしても面白くていいな…と思って、お賽銭を入れさせていただいたんです。

魔夜:受付の方も言い切りましたね(笑)。まあ、確かにご利益なんかないだろうけど。

もと:それを見た担当さんが「ご利益あります!」と、今回の対談をセッティングしてくれたんです。お会いできただけで十分ご利益なのですが、せっかくなので魔夜先生から何かアドバイスをいただければと……。

魔夜:そんなにえらい人間じゃないし、アドバイスといわれても…ですが(笑)。

 

なんでもありの「花とゆめ」

もと:ではさっそく……。私の『ザーフィラ陛下と黒と白』も含め、男性同士の恋愛要素がある作品は今でこそ珍しくないですが、『パタリロ!』の連載当時は、商業誌で男性同士の恋愛を男性作家が描くのは珍しかったのではないかと思います。先生は当時の状況をどう見てらっしゃったんですか?

 

 

魔夜:『トーマの心臓』(萩尾望都先生)や『風と木の詩』(竹宮惠子先生)が世に出て、みんなが憧れて挑戦した時代でしたね。でも、結局多くはマネで終わってしまって。同人誌の世界は別として、「花とゆめ」のような一般の商業誌で、男性同士の恋愛を本格的に突き進めようとする人はだんだんいなくなっていったように思います。

もと:個人的に、魔夜先生の作品で描かれる男性同士の恋愛は「少年愛」で、今で言うBLとはまた違うもののように感じています。なんというか、悲劇性や耽美性を備えた雰囲気を読む側に期待させるというか……。

BL誌出身のもといも先生が描く『ザーフィラ~』のシラジュ&ラシェド。表では対立を偽るが、家に帰ればラブラブ婚約中。

 

魔夜:その違いって、実は私自身はよくわからないんですよ。私は普通の世話物(※歌舞伎や浄瑠璃の題目で、義理・人情・恋愛など市井の人々の日常を扱ったもの)として、男女のそれと変わらない、当たり前の恋愛を描いているつもりでしたから。当時から「花とゆめ」はなんでもありだったから、「枠で囲ってしまったらダメ、なんでもアリでいいじゃないか!」という気持ちで描きたいものを描いていました。最近の「花とゆめ」は、むしろおとなしいんじゃないですか?(笑)

もと:私はバンコランとマライヒの間に子どものフィガロが生まれるエピソードがとても好きで、読むたび「いいなあ……」と思うんです。まんがや創作ってなにが起きてもアリというか、現実の枠から自由でいられるんだな、と感じるのもありまして。ああしたお話も、魔夜先生が枠に囚われていないから生まれたんですね。


マライヒがバンコランの子を妊娠し育児するエピソードも。(『パタリロ!』より)

 

まんが家は「運も実力のうち」?

もと:先生の著作の中でよく、自分はとても運がいいとおっしゃられていますが、まんが家には運に愛されることも必要なんでしょうか。

魔夜:運も実力のうちと言いますから。私も、運が良くなかったら所沢にも大阪にも住んでいなくて、『翔んで埼玉』もできていなかったかもしれません。住んだからこそいろいろ言えるし、描けるものですから。


実際に住んでいたからこそ描ける、愛あるディスり。(『翔んで埼玉』より)

 

もと:『翔んで埼玉』! 『2』では近畿・関西が舞台なんですよね、楽しみだなぁ!(インタビュー時は未公開)

魔夜:1.5倍は無駄に壮大になっていますよ(笑)

──『パタリロ!』や『翔んで埼玉』のように、ご自身の生み出したものが他のメディアになった際、魔夜先生はどんな気持ちでご覧になっているんでしょう。

魔夜:アニメでも映画でも、私は手を出さずにすべておまかせしているので、「あぁ、こうなったか」という感じです。その結果いい方向に行ってくれていますし、やっぱり私は運がいいなと思います。

もと:いい方向に行った要因は、なにかあるんでしょうか。

魔夜:ほかのメディアになったものが大衆にウケるのは、そこに原作を超える面白さがあるからだと思っています。紙のまんが、映像、演劇は全部違いそれぞれ制約もあるので、いいものになるかどうかは本当に運しだいなんですよね。『パタリロ!』の舞台も、加藤諒くんがこの世に生きているからできたものですし。そうした、いいものを作ってくれる人たちとめぐりあえるのは、やはり私の運のよさかなと。

もと:原作を超える面白さを生み出せる人との出会い……。私もあやかりたいです。

魔夜:あなたはこうしてちゃんと活躍しているんだから、問題ないでしょう。でも、手にした運をさらによくできるかは自分の努力次第ですよ。

もと:そうですよね、運をつかめるだけの力をまず持っていないと。胸に刻みます!

 

「ネーム」の作りかたと「インプット」

もと:魔夜先生は連載当時、ネームを描かれなかったと聞きましたが本当ですか?

魔夜:『パタリロ!』の1年目くらいは作っていたんですよ。でも、当時の担当さんに「ネームも原稿も全く一緒だから、見てもしょうがない」と言って、やめたんです。

もと:それは編集者さんのネームの修正がゼロってことですよね……?

魔夜:なかったですね。もといもさんはネームに時間がかかってしまうタイプなんですか?

もと:『ザーフィラ陛下』は作業時間のうち8割以上がネームを作るのにかかっていて、作画にかける時間が圧迫されていますね……。

魔夜:以前の私みたいにネームを作らなければ、その分時間がとれるけど?(笑)

もと:そうできたらいいんですけど(笑)。お話をどう展開すればいいのかつかめずに迷ってしまうことが多くて、担当編集さんに軌道修正してもらうことも多々あります。

魔夜:担当さんは大事だからね。私もいろいろな人に担当してもらいましたけど、一番よかったのはほっといてくれる人だったかな。

もと:私の担当さんも、信頼して待ってくれます。私は、頭の中にあるものが形にならずに悩んでいる時間が長くてギリギリまで引っ張ってしまいがちで。でも、担当さんは時間がなくてもきちんとネームを見て、直すべきところは指摘してくれて、やり直させてくれて。今できる精一杯の力で描こう、という気持ちでまんがに向き合えているのは、担当さんのおかげです。

魔夜:あなたのことを理解してくれる、いい人に当たったんだ。ああ、アドバイスといえば締め切りだけは守ったほうがいいですよ。

もと:そ……れは……、もちろん……です……。

魔夜:絶対に締め切りを守らない先生の担当さんと話したことがあって。昔は「写植」といって編集者がセリフをハサミで切って原稿に切り貼りしていたんです。で、本が出るか出ないかの状況で写植を切り貼りしていると「このハサミでアイツの背中を!」と思うことがあったと。それで「絶対に締め切りは守ろう!」と思いました。命に関わりますから(笑)。

もと:魔夜先生は絶対に締め切りを守るとお聞きしていましたけど、納得です(笑)。私も、いつか迷惑かけっぱなしの担当さんにドカンと恩返しできるようにがんばろう!

魔夜:その気持ちがあれば、もといも先生は活躍しますよ。刺されなくてすむし(笑)。

もと:がんばります! それでちょっと話を戻して、物語を作るにあたって魔夜先生は日常でいろいろな情報をインプットすることを意識されているんですか?

魔夜:さほど意識してはいませんね。まんがに描いていることもいつの間にか知っていることばかりで、どこかで見たり読んだり聞いたりしているんでしょうけど覚えてない。普段の何気ないインプットが、マンガとして紙にアウトプットされている形でしょうか。

もと:『パタリロ!』を読むと、落語、SF、推理、科学など本当に幅広いネタが描かれていて、どうやってこれだけのことを頭に入れているんだろうと思います。

魔夜:ああ、落語は好きで、一時期は仕事中にずっと聞いていました。落語の「間」や、いろいろな名人のヌッと抜いたり、キッチリしたりといった呼吸感は、はっきり意識はしていないけれど、私の描くまんがのテンポにも活きていると思います。

 

まんが家の仕事量

――もといも先生はデビューして2年ほどですが、魔夜先生がデビュー2年目くらいの頃は何をされていたんでしょう。

魔夜:20歳で『デラックスマーガレット』でデビューして、仕事がどんどん来るだろうと思っていました。でも、待っていても全然仕事は来なくて落ち込みましたね。まんが家になったはいいけれど、先が見えずに一番つらい時代でした。そこで開き直って「花とゆめ」に送った作品が連載につながって、なんとかなりましたけど。

もと:私は「花とゆめ」のBL電子増刊『Trifle by 花とゆめ』に持ち込みをしたことがきっかけで担当さんに拾っていただけたんです。その持ち込み作を修正して掲載してデビュー、という棚ぼたなデビューでした。「花とゆめ」本誌のネーム会議にネームを提出してみないかと誘っていただいたときは不安だったんですが、担当さんに「「花とゆめ」は『パタリロ!』を連載していた、懐の深い、いろんな愛の形がある雑誌です!」と言われて、「確かにそうだ!」と(笑)。『ザーフィラ陛下~』は読切から集中連載になり、コミックスまで出していただけて……。担当さんのその発言がなかったら、今こうしてここにいられなかっただろうな、と思います。

魔夜:私が順調だと思えるようになったのは、やっぱり『パタリロ!』を描き始めてからですね。一番忙しかったのが30代で、35歳くらいのときは月に200ページくらい描いていました。

もと:200ページ!! 私は月に60ページとかですね……。

 

──魔夜先生も含め、あの時代のまんが家さんは今から見ると本当に驚くほどの量のお仕事をこなされていました。

魔夜:昭和30年代ごろの少女まんがのスターだった鈴木光明先生は、年間で1万ページ描いたとおっしゃっていましたね。「花とゆめ」のまんがスクールで批評もされていた方ですが話半分にしたって5000ページですから、ちょっとマネできない(笑)。

もと:そこまで大量に描くまんが家さんが現在(多分)いないのは、まんが家さんの数がとても多くなり、出版社の依頼先が分散していることも関係しているのかな、と。

昔は人気のあるまんが家さんに依頼がとても集中していた上に、その依頼も連載や掲載が確約されているものだったんじゃないか、という印象があります。

現在は編集さんから「うちで描きませんか」と誘われても、それは掲載・連載というバッターボックスに立ってくださいというお誘いではなくて、ネームを一緒に作りませんか、つまりベンチにひとまず座りませんか、というお誘いがほとんどだと思うんです。そしてまんが家はバッターボックスに立った回数だけが実績になる仕事なので、それはまあ……、ひとり当たりの仕事量としては減るかなあ、と。

魔夜:じゃあ、仕事のオファーが来たらいくらでも描けるってことだね(笑)。

もと:いくらでもはちょっと…!(笑)。でも、デビュー前は何か月もかけてネームや作品を1本仕上げるような速度でしたが、本誌連載はネームを含めて2週間で30ページ。「以前と比べたらけっこう枚数描けるようになってきたな…」と自分でも驚いています。いえ、描かなきゃいけないんですけどね(笑)。やはりバッターボックスに立つ、描く必要がある環境に身を置くということの執筆速度への影響はとても大きいと思います。ほかにも、過去のレジェンドまんが家さんって「来た仕事は何があってもこなす」という気迫が今の人より強かったような印象があるのですが、どうでしょう?

魔夜:うん、それは言えます。手塚先生、石ノ森先生、赤塚先生、みんなものすごく仕事をしていましたよね。ただ、その代わりみんな60歳くらいで亡くなっていたりもして、若い頃に無理しすぎるのもよくないのかな。私はそこまで無理をしてないから、まだ生きています(笑)。

 

「描けるものを描く」という極意

もと:私も出来るだけ長く生きて、編集の方が長く使いたくなるまんが家になりたいです。

魔夜:それなら個性的になろう。どこにでもあるようなまんがは誰も読みたがらないでしょ? あなたしか描けないものを描けばいやでも長く、多く使われるまんが家になれますよ。BL的な要素を思いっきり前面に出すとか……は冗談だけど(笑)

 

もと:そうですね……!ですが正直に言うと、『ザーフィラ陛下』はあくまでザーフィラを見てもらう作品であって、BL的要素をことさら強調したいわけではないんです。たまたまザーフィラの親代わりが男性ふたりだっただけ、そのふたりが恋愛関係だっただけ、というつもりで描いているので。魔夜先生が『パタリロ!』で作ってくださった土壌がある「花とゆめ」だからこそ、迎え入れてもらえている作品だと感じています。

それに、私が描けるBLは現在のBL業界の流行というか、BLが好きな読者さんの多くが求めていらっしゃるものとはズレているな、とも感じているんです。『Trifle by 花とゆめ』以外のBL誌に作品を持ち込んでも、お断りされ続けているので……。(笑)

魔夜:なるほど。結局は、自分が描けるものを描くしかないんですよね。どんなに描きたいものがあっても、自分の中にそれを描く力や想いがなければ絶対描けない。自分が楽に描けるもの、それが一番自分に合っていて、一番伸びますよ。

もと:私はまだまだ新人ですし、読者さんが求めているものを描きたい、とつい考えてしまいますが……。その前に「描けるものを描け!」なんですね。


『ザーフィラ~』には様々な愛をもつ個性的なキャラがほかにも。陛下を「母」と慕う軍の総督も。

 

魔夜:私だと、パタリロとバンコランの掛け合いなら、ざっと100枚でも200枚でも描けます。ただ、それをやると、さすがに怒られそうだからやらないけれど(笑)。

もと:読者としてはそれも読みたいですが…!(笑)。

魔夜:あとは体力。まんがを描くのも大事ですけど、やはり運動はしたほうがいいですよ。私は最近4~5000歩は平気で歩くようになって、買い物するときもわざと少し遠くまで歩いて行ったりとかしています。

もと:体力をつけないといけないのはわかっていて、歩くのも好きなんですけど……、なんというか、用事がない日にわざわざ着替えて外に出るのが、ちょっと……ハードルが……高く……。

魔夜:それは少し問題があるな(笑)。

もと:ちゃんと着替えて毎日外に出るようにします! 魔夜先生もご健康を保って、ぜひ目標の『パタリロ!』200巻達成をお願いします!(笑)

魔夜:運がよければね(笑)。

 

 

――魔夜先生、貴重なご利益(アドバイス)をありがとうございました!

 

記事協力:プロダクションベイジュ

撮影:石森貴巳子

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