とある弁護士の本音のコラム
- 第17回 こういう相談ならどうなる? 2
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相談3:テレビ番組の演出がひどいと感じて、その部分をスクリーンショットして批判とともに掲載したが問題あるか?
テレビの一場面をスクリーンショットにとって、それについてコメントをするということはX(Twitter)を中心にしばしば目にする行為です。批判をすること自体は一般的には構わないといえますが、スクリーンショットを掲載する場合は、その掲載方法をうまくやらないと著作権侵害(公衆送信権侵害)と判断される可能性があります。
スクリーンショットを撮ること自体は、それを外部に公表するのでなければ私的使用の範囲にあるものとして許されるのが原則です(著作権法第30条)。ただ、私的使用とは「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」による使用を著作権者の許諾なくできるだけで、インターネット上に公開することは私的使用の範囲を超えることになります。したがって、他の著作権制限規定に当たらない限り、著作権侵害になってしまいます。
ここで使える著作権制限規定は、引用(同法第32条)といえます。引用は「公正な慣行に合致」し「目的上正当な範囲内」であることと、出所の表示(同法第48条)といった要件を満たす場合に認められるとされていますが、公正な慣行といえるかは、「引用を行う必然性があるか」や「引用部分が明確か」といった事情が考慮されます。
この例では、場面を批判するためのもので必然性があり、スクリーンショット部分が引用部分であることは一見して分かるでしょうから、公正な慣行に合致しているといい得ます。また、番組の一部のみを用いていることから目的上の正当な範囲にあるともいえ、問題は引用元の表示があるかということになってきます。
画面内に番組名の表示がある場合もあるので、どこまでの表示があれば引用元の表示があるといえるかが問題になりますが、「合理的と認められる方法及び程度」(同法第48条1項)のものが求められることになるため、番組名の表示だけではいつの何という放送か分からないので、せめて放送日時の表示くらいは必要だろうと思われます。
したがって、こういった表示がない場合には、著作権侵害になっていまいます。こういった投稿を目にする限り、要件を満たす形で表示がされている例はほとんどないように思います。
なお、著作権に関する請求については外国法人も比較的スムーズに対応するため、テレビ局側からの削除請求があれば認められることになると思われます。
相談4:残業代が払われなかったので「大なり小なり毎日サービス残業がありました」と転職サイトに書き込んだが、数年経過し、現在はきちんと支払っていると耳にした。責任追及されてしまうか?
サービス残業があるという指摘は、労働に対する対価を正当に支払っていないということであり、労働基準法に抵触する行為をしているという指摘に他なりません。したがって、このような指摘は元勤務先の社会的評価の低下を招くことは争いようがないと思われます。
しかし、権利侵害に当たるかどうかは違法性阻却事由の検討をする必要があります。支払いをするように促す意味があるため公共性・公益目的はあるといえるでしょう。また、少なくとも投稿した当時に残業代が支払われていなかったという事情があるということなので、当時は真実だったといえます。不法行為を問題にする際、原則としては行為時にどうだったのかを検討することになり、その後の事情の変化があったとしても、それは直接的には関係がない事情といえます。
したがって、現時点では間違った情報になっているといっても、投稿当時に真実であった以上、少なくとも投稿したことについての責任追及が認められることはないといえます。
ただし、こういった相談のケースでは、本人がきちんと認識していないだけで、固定残業代として支払いがされている例も見受けられます。きちんと残業時間の管理がされていたのか、固定部分を超えた部分の支払いが適正にされていたのか等、争うポイントは色々とありますが、適切な支払いがされているとすれば、実際には残業代が支払われていたと評価されることになるため、投稿当時も真実ではなかったということになります。この場合は、責任追及が認められる可能性があることになります。
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- コラム著者プロフィール
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しみず・ようへい
2010年「法律事務所アルシエン」開設。
インターネット上の問題に早くから取り組み、先例的な裁判例が多くある。
著書・共著も多数。
マンガ・ドラマ「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」監修を担当。
