とある弁護士の本音のコラム

第16回 こういう相談ならどうなる? 1

相談1:ネット上の「Aが犯人だ」という噂を信じて、その情報を拡散したが違法か。

情報拡散をする場合と言っても、X(Twitter)を利用する場合を例にすれば、単に「Aが犯人だ」という元投稿をリポストするだけの場合、リポスト後に続けて(又は引用リポストしつつ)自身の見解を述べている場合の2種類が考えられます。

ネット上の記事の読み方は、「一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方」をすることになりますが、単にリポスト(拡散)した場合と、その情報を正しいものという前提で拡散していると捉えられることになります。そして、リツイート(Xが「Twitter」だった時の拡散機能)の名誉毀損性について争われた大阪高判令和2年6月23日は、「リツイートによる投稿をも含めて,ツイッターにおける投稿が,当該投稿に係る表現内容を容易な操作により瞬時にして不特定多数の閲読者の閲読可能な状態に置くことができるという特質に鑑みると,本件投稿の閲読者がさらに本件投稿を単純リツイート等することによって本件投稿の表現内容が更に多くの閲読者の閲読可能な状態に置かれる」ことを問題視し、その社会的評価の低下を認めています。このケースでも、犯人であるとの指摘は、刑事事件を起こしている人物であるという指摘といえるため、この指摘は社会的評価を低下させるものといえます。

また、リポスト後に続けて(又は引用リポストしつつ)自身の見解を述べている場合ですが、見解の内容が「Aが犯人」であることを肯定するものについては、やはり社会的評価の低下があるといえることになります。他方で、「Aが犯人」ではないことを前提にしていれば(たとえば、噂自体を否定するもの、噂を正しい情報として拡散することの問題点を指摘するものなど)、一般の閲覧者はその見解も含めて投稿を見ることになる以上、Aの社会的評価は低下しないことになります。

したがって、どういう形で拡散したのかによっても、社会的評価の低下の有無は変わってくることになります。

では、社会的評価の低下があるとすれば、次に違法性阻却事由があるのかを検討する必要があります。刑事事件の犯人を野放しにしておくべきではないため、指摘をすること自体は公共性・公益目的があるといい得るでしょう。そして、結果としてその噂が真実であったということなら、違法性がないことになります。

他方で、噂は噂に過ぎず、実際には犯人は別にいたということなら、真実性がない以上、違法性阻却事由はないということになります。ただし、判例上、真実と信じる相当の理由があれば、故意又は過失が否定されるとされており(最高裁平成9年9月9日判決)、この点の立証ができれば損害賠償責任を負わないことになります。

しかし、真実と軽はずみに信じただけでこれに該当するとすれば、安易な人ほど責任を負わないことになり不合理であるため、真実と信じるためには相応の調査をして合理的根拠に基づいて信じたといえることが必要とされます。そのため、ネット上の噂を信じただけということだけでは、これに当たるとすることは一般的には少々難しいだろうと思います。

 

相談2:Aの活動内容が気に入らず「死んで欲しい」と書き込んだが問題があるか。

まず「死んで欲しい」という内容が、どのような権利との関係で問題になるかを考える必要があります。

「死んで欲しい」という指摘は、あくまでも感想や意見と言うべきものです。言われたAとして不快に思うことはあるとしても、これを見た第三者は「この人はAのことが嫌いなんだな」程度の意味でしか捉えないと思われるため、これによってAの社会的評価が下がるかということは難しいといえます。したがって、これを名誉毀損の問題としていくことはできないことになります。

次に、「死んで欲しい」と書かれている以上、脅迫にならないのか、としばしば聞かれるのですが、あくまでも希望が書かれているに過ぎず、「殺す」等と書かれているわけでもないので、これも難しいといえます。なお仮に、「殺す」と書かれていた場合には脅迫と言える余地があり、民事的には平穏生活権の侵害などを考えていくことができると思われます。

では、言われた側が不快に感じるものであるため、名誉感情侵害とはできないでしょうか。「死んで欲しい」と言われた場合、不快に感じること自体は想像に難くないですが、名誉感情侵害が成立するには社会通念上許される限度を超える侮辱が必要です。適切な言葉とは言えないでしょうが、日常的に使われがちな表現であるといえることも考えれば、単に一度このような指摘がされただけでは社会通念上許される限度を超えるということは難しいだろうといえます。したがって、名誉感情侵害ということも難しいといえます。


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コラム著者プロフィール
しみず・ようへい
2010年「法律事務所アルシエン」開設。
インターネット上の問題に早くから取り組み、先例的な裁判例が多くある。
著書・共著も多数。
マンガ・ドラマ「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」監修を担当。