とある弁護士の本音のコラム

第18回 業界用語や言葉の意味

弁護士の呼称に関する業界用語

弁護士業界では、弁護士の立場や性質などを表す業界用語(?)があります。

「マチ弁」は「町の弁護士」の略です。明確な定義があるわけではないと思いますが、もっぱら中小企業の法務や地域住民の民事・刑事・家事事件などを雑多に扱う弁護士を指しています。小規模な法律事務所に所属する弁護士がマチ弁と称していることが多く、渉外弁護士の対義語的に用いられています。

「渉外弁護士」というのは、外国とのビジネス法務に関する案件を扱う弁護士という意味ですが、実際に渉外業務をしている弁護士だけを指すのではなく、もっぱら弁護士が数百人所属する大規模事務所で働く弁護士や外国法共同事業を行う法律事務所の弁護士を指すものとして用いられています。

また他にも、「ブル弁」「ボス弁」「イソ弁」「ノキ弁」というものが従来からあり、近年ではこれらに加えて「タク弁」「ケー弁」といった言葉が加わっています。

「ブル弁」は「ブルジョワ弁護士」の略で、お金をたくさん持っている弁護士を指すものですが、もっぱら渉外弁護士のパートナー弁護士などを指していることが多いといえます。

「ボス弁」は「ボス弁護士」の略で、法律事務所の経営者を指すことが通常で、「パートナー弁護士」と呼ばれることもあります。ただし、パートナー弁護士と一言でいっても、事務所によって意味が違っていることもあり、パートナーの中でもエクイティパートナー、シニアパートナー、ジュニアパートナーなど様々な呼び方があります。

「イソ弁」は「居候弁護士」の略で、経営側にいない法律事務所に所属する弁護士を指し、給与や業務委託料の支給を受けつつ仕事をしている弁護士です。「アソシエイト弁護士」と呼ばれることもあります。「イソ弁」として働いて、その後独立等をして「ボス弁」となっていくのが従来からある弁護士の基本的なキャリアパスといえます。ちなみに、イソ弁にならずにいきなり独立することを「即独」(ソクドク)と言っています。

「ノキ弁」は「軒先弁護士」の略で、法律事務所の一部スペースを間借りして独立採算で仕事をしている弁護士のことです。

「タク弁」は「自宅弁護士」の略で、自宅を事務所として独立採算で仕事をしている弁護士のことです。

「ケー弁」は「携帯弁護士」の略で、事務所を持たず携帯電話、スマートフォンで仕事を受け、打ち合わせはカフェやレンタルスペース等を用いる弁護士のことです。開業費用を節約できますが、事務所がなくオープンスペースでの打ち合わせなど守秘義務との関係も気になるところがあるため、否定的なニュアンスで使われることは多い印象です。

 

和解と示談ってどう違うの?

和解とは、民法695条において「当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約すること」とされています。他方で、「示談」は法律上定義がなく、広辞苑によると「民事上の紛争を、裁判によらずに当事者間の話し合いで解決すること」とされています。

いずれも争いをやめて物事を解決することを指すもので、ほとんど同じような意味で使われていること、示談も私法上の和解契約と法的には整理することができることから、両者の違いはほぼないということができます。

交通事故や刑事事件の被害者・加害者間の合意においては、「和解」というと“手を取り合って仲直り”といったイメージがあるからなのか、「示談」の方が使われることが多い言葉といえます。

なお、和解は、お互いの落とし所を見つけることができれば、裁判の中でもすることが可能です。

 

手続きによる当事者の呼び名

裁判手続では、当事者を原告・被告とすることは一般的に知られていると思います。ただし、これは民事訴訟の場合であり、刑事訴訟の場合は原告はおらず、被告人だけが存在することになります。

また、民事の手続きでは、手続きによって当事者の呼び名が異なっています。

用いられることが多いのは、請求する側を「申立人」、請求を受ける側を「相手方」とするものです。これは日本語的にも違和感なく受け入れられるのではないでしょうか。

違和感を覚えやすいものとしては、民事保全法に基づく仮差押・仮処分などの手続きで用いるものではないかと思います。この手続きでは、請求する側を「債権者」、請求を受ける側を「債務者」といいます。

これは、民事保全法では、当事者を「債権者」「債務者」と表現しているためですが、知らないと何のことを言っているか分からないかもしれません。


このサイトで公開の内容も収録の書きおろし単行本が発売しました!

清水陽平弁護士書きおろし!
とある弁護士の本音の仕事 ~「しょせん他人事ですから」公式副読本~
絶賛発売中!

左藤真通先生によるおまけミニマンガ「しょせん他人事ですからが生まれた日」も描きおろし収録です♪
コラム著者プロフィール
しみず・ようへい
2010年「法律事務所アルシエン」開設。
インターネット上の問題に早くから取り組み、先例的な裁判例が多くある。
著書・共著も多数。
マンガ・ドラマ「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」監修を担当。