とある弁護士の本音のコラム
- 第14回 加害者になってしまったら 2
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合意ができた場合
開示請求者側から何らかの請求が来た場合、それが裁判で請求されたとしても、請求者側と合意ができるのであれば、和解によって終了することができます。
裁判手続以外で合意した場合には、その合意内容を書面にまとめて、後から合意していない内容を要求されないようにすることが重要といえます。書面のタイトルは「合意書」でも「示談書」でも「覚書」でも何でもよいのですが、内容が問題であるため、当事者間で合意した内容が明確に分かる形を取っておくべきです。
仮に、合意した内容を守らなかった際のペナルティが定められている場合、合意内容を守らなかったとすれば、ペナルティを請求されることになります。もっとも、裁判外の合意には強制的な効果はないため、任意に応じないのであれば請求者側が別途裁判等をして請求してこなければ履行を強制されるわけではありません。ただし、合意内容に明確に反しているのであれば、不履行を正当化することはできないため、通常、裁判には負けることになると思います。
他方、裁判上の和解により終了した場合、裁判所により和解調書が作成されています。和解調書には「確定判決と同一の効力」があるため(民事訴訟法第267条)、和解の内容にもよるところですが、履行がされていない事項があればいきなり強制執行を受けることがあり得ます。
警察からの連絡があった場合
上記は民事上の請求がされた場合ですが、開示請求者側が刑事告訴等をしているケースも考えられます。この場合、開示請求者からの連絡ではなく、警察からの連絡があることになります。
警察からの連絡といっても、警察から電話がかかってくるというものでは必ずしもなく(その場合もあります)、自宅等に突然捜索・差押令状を持った警察が来るということがよくあるパターンといえます(いきなり逮捕されるという例もないわけではないですが、ネット中傷事案においてはそのようなケースは多くはありません)。令状に基づく捜索・差押を拒否することはできないので、それについては応じるしかないということになります。また、これに併せて事情を聞かせてほしいといわれることが多く、当日又は後日、警察署に呼ばれて取調べを受けることになります。
警察側からは示談を勧められることも少なくないと思われますが、応じず争っていくという選択肢も当然存在しています。捜査を受けているということは、最終的には起訴される可能性もあるということであるため、どのような対応を取るかは弁護士に相談していった方がよいといえます。争うということであれば、投稿内容に相応の根拠があることなどを積極的に警察に説明し、その裏付けとなる資料を提出していくべきことになります。
他方、仮にこの段階で示談をするということであれば、「告訴・被害届の取下げ」や「宥恕する」といった内容を示談書に入れていくことが重要になります。これらを示談書内に入れることで不起訴になる可能性はかなり高くなるからです。これらを入れることができなかったとしても、一定の賠償をしたということが明らかになれば、被害弁償がされているということ自体がプラスに考慮されることになるため、被害弁償を積極的にしていくことを心掛けるべきでしょう。
他人から知られてしまうのか
特定されて訴えられた場合、そのことが他人に広く知られてしまうのではないか、と考えている方もいるようですが、そのような事例はそれほど多くはないといえます。日本中で日々多くの訴えが起こされているわけですが、そのほとんどが報道されることはありませんし、訴え自体も郵送で訴状等が届くのが普通なので、それが他人に知られるということは通常ありません。
また、訴えられたとしても「前科」がつくわけではありません。「前科」とは有罪判決を受けた履歴のことを指すので、民事上訴えられたとしても、それで前科がつくことはあり得ません。
仮に逮捕等されたとしてもそれだけで前科がつくわけではなく、有罪判決を受けて初めて前科がつくことになるため、示談をするなどして不起訴になるか、無罪になれば前科はつきません。そして、逮捕等された場合でも、実名報道がされなければ広く知られるということはなく、ネット中傷事案においては実名報道される例はそれほど多いわけではないといえます。
したがって、一般的には、他人に広く知られる可能性はそれほど高くはないといえますが、相手が有名人などの場合には報道される可能性は相対的に高くなりますし、逮捕等されれば身近な人たちはその状況を一定程度把握することにはなります。そのため、他人に知られることはないと高を括ることがないようにしておいた方が良いといえます。
- コラム著者プロフィール
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しみず・ようへい
2010年「法律事務所アルシエン」開設。
インターネット上の問題に早くから取り組み、先例的な裁判例が多くある。
著書・共著も多数。
漫画「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」監修を担当。
