とある弁護士の本音のコラム

第13回 加害者になってしまったら 1

中傷を書き込んでしまった

ネット中傷に当たる内容を書き込んでしまったがどうすればよいか、という相談を受けることがあります。この場合、まず内容を見て、権利侵害があるといえる内容なのかを検討して、開示が認められる可能性がどのくらいあるかを回答することが多いです。そういった相談をしてくる方は、概ねそれほどひどいことを書いていないことが多く、開示が認められる可能性はそれほど高くないと判断されることが多いといえます。

もっとも、もちろん全員がそうであるわけではなく、開示が認められる可能性はそれなりにあるだろうと想定される場合もあります。その場合、今からできることはないか、と決まって相談されるわけですが、過去を消すことはできませんし、通信ログはCP・APに残っている以上、その時点でできることはほとんどないといえ、できることとしては投稿を削除しておくくらいであると説明します。

発信者情報開示請求をするのであれば、投稿が適切な形で保存されていることが必要になり、その削除の時点ですでに証拠として確保されてしまっていればどうしようもないですが、仮にまだであれば、証拠がないとして開示請求をしていくことができなくなるためです。

相手が投稿を保存しているかどうかは普通は明らかではないので、あとは本人に投稿してしまったことを明らかにしつつ謝罪するという選択肢を除けば、開示請求がされるかもしれないことを想定しながら日々を過ごすしか、できることはないといえます。

 

開示後の対応

開示された後にどのような対応を取るかは発信者次第ではありますが、選択肢としては、基本的に、自ら開示請求者に接触をして何らかの解決を目指すか、開示請求者からの連絡を待つかの2択になります。

自ら接触をする場合でも、身に覚えがあるのであれば、謝罪するか争うかの2択になりますが、自ら接触するのであれば謝罪をするケースの方が多いだろうと思われます。開示請求者の立場からすれば、「請求が来るまで何もしなかった」よりも自ら謝罪をしてきた方が、多少は心証は良くなるので、裁判にせずに早々に解決を望むのであれば自ら接触して謝罪していくことに意味があると言えるでしょう。ただし、その場合でも合意に達するためには開示請求者側の考えとどこかで合致しなければいけないため、必ず早期解決できるとはいえません。

他方で、開示請求者からの連絡としては、内容証明郵便等の送付をしてくる場合と、いきなり裁判を起こしてくる場合があり得ます。裁判をいきなり起こすなんておかしい、という指摘を受けることもあるのですが、何らおかしいことではなく責められる理由もないため、心情はともかくこれを問題にすることはできません。

裁判が起こされると、裁判所からは、第1回期日を指定した呼出状とともに訴状等が到達されることになります。第1回期日の1週間前までに答弁書の提出が求められることから、訴状の内容を踏まえて反論等をしていくことになります。ただし、提出期限までに1か月程度しかないことが普通であり、一方的に指定されている期日でもあるため、準備が間に合わないことも当然あり得ます。そのため、実務上は、請求については棄却を求め、請求原因についての認否と被告の主張は「追って行う」旨の答弁書を提出することで、第1回期日はしのぐことができます。ただし、60万円以下の請求で原則として1回の審理しか行わない少額訴訟を提起されている場合は、この方法を用いることはできないので注意が必要です。

少額訴訟以外では、答弁書を提出しておけば第1回期日は欠席しても問題ありません。欠席予定であれば、答弁書にも欠席予定と書いておくとよいでしょう。

他方で、答弁書を提出せず、期日にも出頭しないということであれば、「口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす」とされます(民事訴訟法第159条1項)。自白をした主要事実は原則として覆すことができないとされるため、結果として、その訴訟での請求は認容されることになります。ただし、認容されるといっても、自白はあくまでも事実についてのみ成立するだけなので、原告の主張する事実関係が正しいものとして認定されるにとどまり、そこからどのように賠償額を定めるかについては裁判所が判断していくことになります。したがって、賠償額については請求額がそのまま認容されるのではなく、裁判所が適切と思う金額が認容されることになります。

いずれにしても、裁判所からの呼出状があった場合はそれを放置することがないようにしましょう。そして、開示請求が認められているということは、一般的には裁判手続により権利侵害があると判断されている状況ではあるものの、発信者側としても権利侵害を争うことは当然可能です。「その証拠を出すと発信者が誰か事実上分かってしまうから、開示請求段階では出せなかった」という証拠があることもあり、そのような証拠に基づいて請求が棄却になることもあります。したがって、開示請求が認められているから当然に損害賠償請求等が認められるというわけではないとはいえます。

コラム著者プロフィール
しみず・ようへい
2010年「法律事務所アルシエン」開設。
インターネット上の問題に早くから取り組み、先例的な裁判例が多くある。
著書・共著も多数。
漫画「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」監修を担当。