とある弁護士の本音のコラム
- 第12回 警察に告訴する
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告訴の方法
告訴は口頭でも可能であり、口頭での告訴がされた際は、その旨の調書を作成することが必要とされています(刑事訴訟法第241条)。また、被害届についても口頭で可能で、その場合は「被害届……に記入を求め又は警察官が代書する」こととされています(犯罪捜査規範第61条2項)。
ただ、口頭で可能であるといっても、特にネット中傷の場合は、いつ、どのような投稿がされているのか、前後の話の流れがどうなっているのかといったことや、さらには話題の前提となる知識がないと文脈が分からないということもよく起こります。
そのため、何の資料もなく説明されても警察としても理解することが難しいため、できる限り被害状況が分かる資料を準備して相談をするべきといえます。私は告訴や被害届についての依頼を受けることも多いのですが、その場合は告訴状案を作成し、それに証拠を付けて持参し、経緯などを含めて説明するという対応を取ります。
警察としても、事件相談を受けてその場ですべての事情を把握して対応の可否を決するということは通常できないことから、大枠を把握してから詳細を検討したいと考えることになります。その際に、資料が何もなければ検討材料がないことになり、資料があったとしてもそれを説明するものがなければ何を指すものか分からないということが起こってしまいます。そこで、告訴状案を作成することで、後から検討しようとしたときに分かりやすくするための資料とするのです。
ちなみに、告訴の場合は特にですが、警察は告訴状をいきなり受け取るようなことは、普通はしません。これを受け取ってしまうと、告訴を受理したと誤解されかねないためです。そこで告訴状「案」であることや、押印していないものを持参する、コピーを持参するなどするとよいでしょう。そのまま渡せるコピーがない場合は警察でコピーを取ってくれることも多いですが、量が多ければ時間がかかることも多いことから、事前にコピーを持参した方がスムーズです。
相談する警察はどこか
被害届や告訴は、警察だけでなく検察に対してもすることができますが、通常は所轄の警察署に相談をすることになります。
法律上は被害届や告訴の届出をする管轄などは定められておらず、犯罪捜査規範第61条1項では「管轄区域の事件であるかどうかを問わず」被害届を受理しなければならず、同第63条1項では「管轄区域内の事件であるかどうかを問わず」告訴を受理しなければならないとされているのですが、実際上は被害発生地を管轄する警察署が事件の捜査を行うのが普通です。そこで、被害発生地(=投稿を閲覧した場所)を管轄する警察署に相談をするのを基本として考えるとよいでしょう。ただ、旅行中など居住地と無関係な警察に相談に行くのも大変なので、その場合には自宅を管轄する警察に、自宅で投稿と見つけたとして相談をするのが現実的です。
次に、警察の中にも色々な部や課があり、犯罪の内容によって対応する部や課が変わってくるため、相談する課を考える必要があります。漫然と警察に相談に行くだけだと、概ね生活安全部の中で生活相談などを対応する部署に回されることになります。ここでも話は聞いてくれるのですが、概ね話を聞いてくれるだけで具体的に何か事件処理が進むことは少ない印象です。
刑事事件化したいということであれば、基本的にはその旨を伝えて刑事課に相談するのが適切なことが多いといえます。ただ、ストーカー規制法違反やリベンジポルノ法違反などについては、生活安全部の中の課で取り扱うことが多く、アポイントを取る際に、どういう事件類型なのかを伝えて担当部・課を教えてもらうのが良いでしょう。
なお、アポイントを取る場合は、110番を使うのではなく、各警察署の代表電話に電話をするようにしましょう。
- コラム著者プロフィール
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しみず・ようへい
2010年「法律事務所アルシエン」開設。
インターネット上の問題に早くから取り組み、先例的な裁判例が多くある。
著書・共著も多数。
漫画「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」監修を担当。
