とある弁護士の本音のコラム

第11回 刑事責任を負わせたい

親告罪(しんこくざい)とは何か

相手に刑事責任を負わせたい場合、捜査機関に事件を認知してもらうことが必要です。そのためには、被害届や刑事告訴などをしていくことが必要になります。もっとも、そもそもの話になりますが、被害届や刑事告訴をするためには相手の行為が刑法上違法な行為であるといえることが必要になります。

そして、告訴権者による「告訴」がないと検察官が起訴をすることができない罪を「親告罪」といいます。「告訴」は犯罪の被害者等が捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示ですが、被害届とは異なり、「犯人の処罰を求める意思表示」が含まれている点が重要なポイントといえます。親告罪は、その事実が公になると被害者のプライバシーが害されるなどの不利益が生じるおそれがある犯罪であるため、それでもなお犯人の処罰を求めたいかを明らかにするために行うものです。

ネット中傷に関連する代表的な親告罪としては、名誉毀損罪(刑法第230条1項)・侮辱罪(刑法第231条)、私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(リベンジポルノ防止法)違反の罪、著作権法違反の罪などが挙げられます。

親告罪は、告訴がないと起訴ができないだけであるため、捜査機関の捜査の要件になっているわけではありません。しかし、捜査をしたとしても告訴がなければ結局起訴はできないことになり、その捜査は無駄になってしまいます。そのため、親告罪については基本的に告訴が得られている(か得られる見込みが高い)ことが、事実上捜査開始の要件になっています。しかし、親告罪についての告訴は、「犯人を知つた日から6箇月を経過したときは、これをすることができない」(刑事訴訟法第235条)とされており、告訴期間はそれほど長くありません。

捜査機関の立場からすれば、それまで全く認知していなかった事件について相談をされるわけなので、その相談の場で事件の内容等を十分検討することは難しく、いきなり告訴を受理してくださいと言われてもそれは困難です。また捜査機関としても、告訴を受ければ捜査をして検察官に事件送付する義務が生じるなど(刑事訴訟法第242条)、一定の義務が生じ、国のリソースを使って事件処理をする以上、受理が相当なものかを検討することが必要になります。そのため、親告罪について告訴をするかどうかは、なるべく速やかに検討し、捜査機関に相談をしていくべきといえます。

なお、告訴は起訴がされる前であればいつでも取り消すことができますが(刑事訴訟法第237条1項)、告訴を取り消した後に再度告訴をすることはできません(同条2項)。取り消した後に「やっぱり責任追及をしたい」と考えてもそれはできないということであり、告訴を取り消すかどうかは慎重に考えるべきといえます。

コラム著者プロフィール
しみず・ようへい
2010年「法律事務所アルシエン」開設。
インターネット上の問題に早くから取り組み、先例的な裁判例が多くある。
著書・共著も多数。
漫画「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」監修を担当。