とある弁護士の本音のコラム
- 第8回 「特定」のためにまずするべきこととは?
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(1)証拠の保存方法(総論)
相手を特定するためには、プロバイダ責任制限法第5条による発信者情報開示請求権を用いて情報開示をしていくことが必要になります。この請求をしていくにあたっては、問題投稿が証拠としてきちんと確保されていることが必要になります。そこでまず、証拠をどのように保存するべきかを説明しようと思います。
開示請求をしていくにあたっては、「どのサイトで投稿されたものであるか」「いつ投稿されたものであるか」という情報が非常に重要になってくることが多いといえます。そのため、「URL」と「投稿日時」が明確に分かる形で保存することが望ましい保存であるといえます。
スマホでのスクリーンショットで保存がされていることが多いのですが、これでは適切ではない場合が多いといえます。スマホで見ている場合、アプリを用いていることが多いと思われますが、アプリでの表示だと投稿のURLが表示されていないことが普通です。スマホのブラウザで見ている場合でも、アドレスバーにURLが表示されているとしても表示範囲が狭いため全体の表示がされていないのが普通です。したがって、スマホでスクリーンショットをするのではなく、「できる限りPCを用いて」「Edge・Google Chromeなどのウェブブラウザを利用し」「ヘッダーとフッダーを表示する設定にして」「PDFで保存・印刷をしておく」のが基本的な保存方法とするのがよいといえます。ヘッダーとフッダーを表示する設定にしておけば、通常、出力した日時やサイトのタイトル、URLなどが表示されることになります。
なお、PDFで保存・印刷しておくと、文字情報などのコピー&ペーストができたり、リンクが生きていたりするので単なる画像ファイルとは異なり得られる情報が増えるというメリットもあります。ただ、単にPDFで保存・印刷するだけだと、広告バナーが問題部分にかかって見えないとか、ページの切れ目でうまく表示がされないといった問題が生じることがあるので、そのような状況になっていないかを確認し、なっていれば倍率変更をするなど設定変更をして保存・印刷することが必要といえます。
また、SNS投稿を保存する場合ですが、タイムラインでの保存がされがちなのですが、それだけというのは避けるべきです。タイムラインでの表示では、投稿日くらいは表示されていることはあると思いますが、場合によっては「1日前」などその時点を基準にどのくらい前かしか表示されていないことも多いです。これでは投稿日時が分からなくなるため、必ず個別の投稿の保存をするよう心掛けるとよいでしょう。
(2)特殊な保存をしなければいけないもの
一般論としてはこのような保存をしてくださいといえるのですが、この方法では後々開示請求をしていく際に困ってしまう例が出てくるサイトもあります。
まず、YouTubeなどの動画の場合は、動画の説明やコメントも展開した上でPDF印刷をしておくとよいでしょう。ただ、PDF印刷をするだけだと当然動画の内容は分からないので、何らかのツールを用いて動画自体もダウンロード等しておくことも必要です。
次に、Googleマップです。Googleマップのクチコミを表示する方法は複数あるのですが、必ずマップから入り、問題のクチコミを探して「共有」ボタンからリンクをコピーしてください。そして、そのコピーしたリンクを、ブラウザのアドレスバーに貼り付けて検索し、その表示されている状態をスクリーンショットします。Googleマップの場合は印刷ではなく、スクリーンショットが適切です。これは、Googleマップを印刷しようとすると、印刷用のURLに変わってしまうためです。そして、GoogleマップのURLは長くてブラウザのアドレスバーに表示しきることができないことが通常なので、ワードやメモ帳などに、コピーしたリンクを貼り付けて併せて保存します。
このようにサイトによって適切な保存方法があることもあり、ここで紹介した方法では適切ではない保存方法のサイトもあり得るところであり、何かしら対応したいと考えたときは早期に弁護士に相談していただくのが、実際にはよいかもしれません。
- 特定班
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「特定班」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、インターネット上のわずかな情報を用いて、個人名や住所といった情報を特定する人たちを指すものです。「特定班」といっても、特別な組織や繋がりがあるわけではないことが普通です。
インターネット上のわずかな情報というのは、「SNS上で過去にどのような投稿をしているのか」「普段やり取りをしているのはどのような者か」といったものです。たとえば、話題の内容から年齢や性別、生活圏はどこか、学生か社会人か、学生だとすれば制服の写真はないか、学校のイベントについて投稿されていればその生活圏で該当するイベントをしているところはないか、SNSで繋がっている者が名前を出していないか、似たような投稿をしている裏アカウントがないか……等々をつぶさに観察して、誰かを特定していくのです。
SNSに普段の情報をアップするということは、その者の生活の一部を切り取っているということなので、それを繋いでいけば一定の人物が浮かび上がることになります(もちろん、そうならないこともあります)。こうやって特定された人物が、実は間違っていたという事例も一定程度あるのですが、意外と正しい情報となっていることも少なくないといえます。
- コラム著者プロフィール
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しみず・ようへい
2010年「法律事務所アルシエン」開設。
インターネット上の問題に早くから取り組み、先例的な裁判例が多くある。
著書・共著も多数。
漫画「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」監修を担当。
