とある弁護士の本音のコラム

第7回 相手に責任追及したい

(1)責任追及の方法

責任追及の方法としては大枠として民事上の責任追及と刑事上の責任追及があることになります。

民事上の責任追及としては、損害賠償請求がその主たるものになりますが、他にも「記事の削除を求める」「今後の投稿禁止を求める」「謝罪を求める」といった請求をすることは(認められるかどうかはさておき)可能です。また、方法としてすでに説明したとおり、裁判を使わずに請求していく方法と、裁判により請求していく方法があります。

刑事上の責任追及は、これをするのは警察・検察の仕事なので、動いてもらえるよう働きかける必要があり、具体的には被害届を出したり、告訴をしたりといったことが考えられます。ただし、これらをするためには刑事上違法といえることが必要です。犯罪であると定められていないと刑事上違法にはなりません。たとえば「プライバシー侵害罪」のような罪はないので、プライバシー侵害がされていても罪になるということは難しいということになります。

ただ、ネット上で匿名で攻撃された場合、相手が誰かということが分かりません。特に民事上の責任追及をしていくためには、相手の氏名・住所が分からないと、請求をしていくこと自体が困難です。SNSやメールアドレスだけを知っていても、容易に逃げられてしまうためです。

刑事上のいずれかの責任追及をする場合は、被害届や告訴は、被疑者不詳でもすることができるのが原則です。そして、国内のサービス(たとえば、ヤフー知恵袋、アメブロ等)で行われているものであれば、捜査権が及ぶことから捜査をすることは法的には可能なのですが、警察はこれらの捜査を積極的にはやりたがらないことが多いという印象を持っています。また、外国会社については、そもそも捜査権が及ばず、外国での捜査をするためには国際捜査共助という手続きを取ることが必要で、手間と時間がかかり、かつ、十分な成果を得られるとも限りません。したがって、外国会社が提供するサービスに関するもの(Google、Xなど)だと、実質的に何もできない状況になっています。

そのため、民事上でも刑事上でも責任追及をしたいと考えるのであれば、まずは自分で相手がどこの誰かを特定していくことが必要になってきます。

 

遠隔操作ウイルス事件

2012年、インターネット掲示板「2ちゃんねる」を介して、複数人のパソコンが遠隔操作され、これを踏み台として犯罪予告が行われるという事件がありました。当初は遠隔操作されたことが不明だったこともあり、投稿時のログを手がかりに捜査がされ、複数人が逮捕されました。全員が否認したものの取調べの過程で2名が行為を認めたため、起訴等がされましたが、その後遠隔操作されていたことが明らかとなり、起訴が取り消されるなどしました。

この事件は、真犯人が謎かけのようなことをして世間のリアクションを楽しむような様子が見られたこともあり、当時かなり報道されたのですが、実際にやっていない者が自白して起訴までされたということについて、取調べの経緯などを含めて問題視する報道もされました。

個人的な経験と感覚に過ぎないのですが、この事件以降、一時期は、被疑者不詳だと警察では捜査ができないと明確に言われたこともありますし、被疑者不詳で告訴をしようとしても、警察が自ら捜査をして被疑者を突き止めるという作業をなかなかしてくれなくなったように思います。

 

(2)相手の情報を晒したい

相手を特定できた場合、「特定した相手の情報を公開したい」「相手の職場や関係先に通知したい」といった相談が非常に良く寄せられます。一方的に中傷をされた以上、そのようなことをしたということを相手の周囲に知らしめたいというのは、気持ちとしてはよく分かるところです。

しかし、プロ責法第7条は、「発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者情報に係る発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない」としています。開示された情報を公開するなどすれば、相手が名誉毀損等の行為をしていたということで、相手の名誉やプライバシー、生活の平穏を害することになるため、これに抵触することになります。

もちろん正当な目的のために行うものであればよいのですが、晒すというのはもっぱら復讐のために行われていると思われるので、正当な目的のためということは通常あまり考えられません。「他人の名誉を毀損するような投稿をしておきながら、なぜ発信者の名誉が守られなければいけなのか」といった質問(苦情?)も受けるのですが、気持ちは分からないではないものの、自分の行為が新たに別の侵害を構成することになるというだけで、相手を利することになることと、相手と同じレベルになってしまいますよ、という説明をして思いとどまるように話しています。

コラム著者プロフィール
しみず・ようへい
2010年「法律事務所アルシエン」開設。
インターネット上の問題に早くから取り組み、先例的な裁判例が多くある。
著書・共著も多数。
漫画「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」監修を担当。