とある弁護士の本音のコラム

第6回 ネットトラブル

(1)ネットトラブルの種類

インターネットを介したトラブルとして「SNS等で誹謗中傷された」「なりすましをされた」「SNSで公開していた絵がトレースだと言われた」「個人情報をネットに書かれた」等に始まり、過去に公開していた情報を含めて個人に関する情報を粘着的に調べて公開するもの(いわゆる「ネットストーカー」)や、多くの人に見られる場所で非難等を受ける場合が代表的といえるとは思います。

ネットトラブルというと、こういった代表的なトラブルを思い浮かべるでしょうが、そうすると「SNSをやっていなければ無縁」と考える人もいるかもしれません。しかし、必ずしもそうではないのが現代社会です。たとえば、自分はSNSをやっていないとしても、友人などがSNSを利用している場合に、自分がした発言や行動をSNSに無断で掲載されてしまっているかもしれません。その場合、発言や行動をした自身がトラブルの中心に立ってしまうことがあります。

回転寿司チェーン等で撮影された悪ふざけ動画が炎上した例を覚えている方も多いのではないかと思いますが、あれらも他人が撮影して他人が投稿していることが多いのです。また、某大学で行われた社会人向け講座に講師として登壇した上場企業役員の不適切発言が、SNSに“中継”されて炎上するなどの例もあります。

また、SNSをしていても「非公開アカウントだから」「24時間で消える投稿だから」と安心して投稿していたのに、それらをスクリーンショット・録画するなどして、誰でも閲覧可能な状態に置かれるなどということも日常的に起こっています。

したがって、SNSをやっていないからとか、非公開だからといった理由では、もはやネットトラブルから逃れることは難しい時代になっています。

しかも、こういったトラブル以外にも、ネットトラブルとしては様々な類型があります。たとえば、いわゆる「LINE外し」など仲間外れにされるもの、LINEのスタンプ等を大量に送り付ける「スタンプ爆撃」といった日常のやりとりから発生するトラブル(いわゆる「ネットいじめ」)、ネットショッピングで購入したものが届かない、購入したものが説明と合致しない粗悪品だった等のネットショッピングにまつわるトラブル、SNSその他のアカウントを乗っ取られて自分のアカウントにログイン等できなくなるもの(「不正アクセス」)、偽のウェブサイトやEメールを通じて、本物の金融機関や企業を装って個人情報やパスワードなどを入手し不正出金をされるもの(いわゆる「フィッシング詐欺」)、SNSを見ていたら投資勧誘をする有名人の広告が出てきて、言われるまま投資をしてしまったというもの(「投資詐欺」)、大量の通信を行うことで正常なサービス提供を阻害するもの(いわゆる「DDos攻撃」)などがあります。

ネットから隔絶されて生きるというのはもはや難しい状況であり、常にリスクにさらされている状態であるということができます。

 

(2)法的対処になじむのは?

こういったネットトラブルは、それぞれ法的な問題があるといえますが、残念なことに必ずしも法的にきれいに解決できるものばかりではありません。

不正アクセスやフィッシング詐欺、DDos攻撃については、不正アクセス禁止法に抵触していたり、業務妨害に当たるなどするわけですが、システム的・技術的な対処が必要になる部分が大きく、弁護士が法的な対処をすることはかなり難しいか、できることはかなり限定的です。

ネットショッピングについては、詐欺的なものであれば契約を取り消したり、返金を求めるといった対応で弁護士が対応する余地がありますが、金額的にそこまで大きくならないことが多く、弁護士に頼むには費用対効果が合わないといったことがしばしばあります。また、売主への直接の対応は難しくても、販売のプラットフォームを提供している者がいる場合であれば、そこが一定の窓口として機能し、一定の補償を受けることができる場合もあり、必ずしも弁護士がいなくても対応できる場合があります。

ネットいじめについては、関係性の近さからいじめている者が誰かが概ね分かっていることが多くあります。その意味では、民事上の責任追及をしやすいとはいえますが、行われている内容が不法行為と言い切ることが難しかったり、言えるとしても関係性が近すぎて法的措置を取ることに躊躇をしたりすることも少なくありません。

中傷やなりすまし等については、やられた側は不快な思いを抱くことは間違いないところですが、不快であることと権利侵害があることは一致するわけではありません。弁護士が対応するためには、基本的には権利侵害があるといえることが必要で、権利侵害があるといえるかは内容次第といえます。したがって、実際に内容を見てから、また事情を聞いてどんな証拠があるのかを確認してからでないと、対応の可否判断ができないことになります。なお、ネットストーカーについては、もっぱら自身が公開した情報を自分が望まない形で別の場所で公開されているケースが多く、気持ち悪さはあるものの、プライバシー権などの侵害と構成することが難しいことが少なくありません。

ネットを介したトラブルのうち、弁護士の仕事になじむものは実はそれほど多くなく、類型としてなじむものでも「これだからOK」といえるものではなく、個別に事案を見ていくことが必要になってきます。

ネットストーカーは「ストーカー」にあらず

ネットストーカーは、「ストーカー規制法で対処できるでしょ?」と思う方は多いのではないかと思います。しかし、実はそう簡単ではありません。

同法を適用するためには「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」(ストーカー規制法2条1項1号)があることが必要になります。要は、恋愛感情に基づいていることが必要とされているのですが、元交際相手が加害者であると分かっているならこれを満たすでしょうが、ネットストーカーをしてくる人物は元交際相手に限りません。

むしろ、見ず知らずの他人とネット上でトラブルになった後、突然、ネットストーカーが始まっている例が多いと思われ、もっぱら腹いせ・嫌がらせの目的ではあるとはいえますが、恋愛感情に基づいているということはできないことが多いでしょう。そのため、恋愛感情に基づいているということができず、ストーカー規制法の適用にはなじまないのです。

コラム著者プロフィール
しみず・ようへい
2010年「法律事務所アルシエン」開設。
インターネット上の問題に早くから取り組み、先例的な裁判例が多くある。
著書・共著も多数。
漫画「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」監修を担当。