とある弁護士の本音のコラム

第5回 法律相談ってどんなもの?

(1)法律の解釈とは

法律相談は、事実関係や証拠を踏まえて、現時点がどういう状況なのかや、どういう解決を目指したいのかという希望に基づいてアドバイス等をするものです。弁護士がアドバイスをする場合、最終的に裁判等による解決がされた場合にはどうなるかを前提に、どういうことになりそうかを説明することが多いのではないかと思います。そして、それを実現するために、あるいは回避するためには何をするべきか、又はしないべきか、ということをアドバイスすることになります。

ところで、「一定の事実にある法律を適用すれば、常に同じ結論になる」と無意識的に考えていることはないでしょうか。たしかに、弁護士は、司法試験や司法修習など弁護士になるまでの勉強で、基本的な知識を覚え、どのような事実についてどのように法律を当てはめるかのトレーニングを受けてきているので、同じ事実については同じような回答になることが多く、その認識には正しい側面があるといえます。

しかし、法律はいろいろな事象に適用できるようある程度抽象的な定め方がされていることが通常です。そのため、法律に定められている概念に該当するのかを、個別の事情から解釈していくことが必要になります。そして、弁護士によって物事の見方や事実に対する評価の仕方が異なっていたり、持っている知識に差があるといった理由により、アドバイスする内容が異なってくることが当然あり得ます。

たとえば、「名誉毀損」の場合、どういった表現があればこれに当たるのかということは法律に定められているわけではないため、この表現は名誉毀損に当たり得るのか、ということを個別に考える必要があります。こういった解釈は、常識や普通ならどう捉えられるのかといったことを踏まえて行われ、また判例・裁判例でどういう判断が示されているのか、立法者がどういった意図で立法したのか、条文解説でどのような説明がされているのか、といった種々のことを踏まえて行うことになります。

弁護士によってどういった要素を重視するかが変わってくるため、結論も変わってくることがあり得るのです。ただ、何にしても重要なのは正確に事実関係を伝えることであり、「法律相談の準備」のところで説明をしたポイントを準備して相談に臨むべきといえます。

なお、弁護士によって回答が異なる場合があるということは、必ずしも一人の弁護士にのみ相談するのではなく、複数の弁護士に相談をしてみた方がよいといえます。複数の弁護士に相談をするのは失礼なのではないか、と考える方もいるようですが、自分にとって最善の結果を求めるためであり、何ら気にしなくてよいと思います。また、依頼している弁護士の方針に疑問があるといった場合であれば、他の弁護士にセカンドオピニオンを取ってみるということも全く問題ありません。

 

(2)弁護士が「やめた方がよい」と言う意味

法律相談を受けた弁護士は、相談者の希望にできるだけ沿えるように、有利になるように法律構成を考えてアドバイスを行うことが通常です。しかし、弁護士から「それはやめた方がよい」とアドバイスすることもあります。

これには大きく分けると2つの異なる理由に基づくものがあり、①相談者がやろうとしていることが違法、又は違法とされるリスクが高い場合と、②法的措置を取ること自体は可能であるものの、希望する結果を得られるとは思えない場合があります。

まず、①についてですが、日弁連は「弁護士職務基本規程」という弁護士の職務に関する倫理と行為規範を明らかにするための規程を定めており、その第14条で「弁護士は……違法若しくは不正な行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない」と定めています。違法行為などを助長するのは倫理的に問題があることは弁護士に限ったことではありませんが、法律を扱う弁護士がそれをすればより問題は大きいといえることから、このような定めが置かれています。

相談者は、やろうと考えていることが違法又は不法かどうかを認識していないことも少なくありません。たとえば、ネット中傷をされて相手を特定した場合、その人物を晒してよいかという質問をとてもよく受けます。中傷をされていた以上、その人物を晒しても自業自得ではないかという気持ちはよく分かりますが、それをしてしまうと、その人物の名誉やプライバシーが害されることになります。そして、プロバイダ責任制限法7条は「発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者情報に係る発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない」としており、これに抵触する可能性が高くなってしまいます。

したがって、相談者が違法又は不法な行為をしようとしている際は、そういった行為をしないよう諫めることも、弁護士の仕事の一つと言えます。

次に、②は、希望する結果を得られないと思われるので、善意から「やめた方がよい」と言う場合です。国民には裁判を受ける権利(憲法32条)があるため、どのような場合であっても、大抵は裁判などの法的措置を起こすこと自体は可能です。ただし、裁判を起こすことが可能だとしても、その訴えが認められるかは別問題であり、事実関係や証拠関係から、相談者が裁判などの法的措置をとっても棄却される(敗訴する)ということも当然あり得ます。

この場合、弁護士としては依頼を受けること自体は可能で、依頼を受ければ報酬を受領することができます。しかし、一般的な弁護士であれば敗訴リスクをきちんと説明し、費用倒れになるだけだからやめた方がよいという説得を行います。

ちなみに、こういった説得をしても、「お金の問題ではない」としてどうしても受けて欲しいとお願いされることも一定程度あります。しかし、この場合でも依頼を受けない弁護士が多いのではないかと思われます。当初にどんなに「これは敗けることになる」と説明をしていても、争っているうちに相手への感情が重なって絶対に敗けたくないという思いが強くなったり、相談者の主張を最大限主張する書面を見ているうちに、途中から「これは勝てるのではないか」と思い始め、敗けることに感情が追いつかず、実際に敗けるとなったときに恨みの感情が弁護士に向かう事例が極めて多いためです。

結果として、相談者にとっても弁護士にとってもよいことにならないということを、弁護士は経験的に知っているのです。

違法と不法

「違法」と「不法」は一般的な言葉としては同じような意味で使われていますが、法律家が用いるときはニュアンスに違いがあります。

「違法」は法律に違反することを指す言葉で、もっぱら暴行罪や窃盗罪など刑事罰を伴うような法律に抵触するものについて用いており、「不法」は法に合っていないという意味になり、契約違反や不法行為などの民事的な責任を伴うような行為について用いています。弁護士は「違法」と「不法」についてほとんど無意識的に使い分けているのですが、民事に関するものだから常に「不法」を使うかといえばそうではない、というのがまた複雑なところです。

民事上の「不法行為」は損害賠償等が認められることになりますが、不法行為と言えるためには、一般的に「違法性」のある行為でなければいけないと認識されており、ここでは「不法性」のある行為とは通常言いません。こうしてみると、違法というのは「行為」に着目したものであるようです。

コラム著者プロフィール
しみず・ようへい
2010年「法律事務所アルシエン」開設。
インターネット上の問題に早くから取り組み、先例的な裁判例が多くある。
著書・共著も多数。
漫画「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」監修を担当。