とある弁護士の本音のコラム

第3回 法律相談の準備

(1)早めに相談を

法律相談なんかしたことがない、どういう話をすればよいのか分からない、と考える方もいるかもしれません。また弁護士に相談をするのは「何となく敷居が高い」とか、そもそも「こんな相談を弁護士にしていいんだろうか」と考えている方も多くいるようです。弁護士に相談をする場合、法律相談料がかかることが通常であるため(無料にしている弁護士もいます)、費用がかかる以上無駄にしたくないという思いもあるのではないかと思います。

ただ、それが法律問題なのか・そうでないのか、法律問題であるとしてどんな対処ができるのかということは、ひとまず相談をしてもらわないと判断をすることができません。相談を受けた弁護士が、適切な相談先が弁護士ではないということが分かれば、他の専門家等を紹介することも可能なことが多いですし、逆に弁護士を使わずに自分で解決できる方法を教えることも少なくありません。気負わずに相談をしてもらうことで、問題の解決につながる可能性が高まることになるということは覚えておいていただいてよいと思います。

他方、しばしば「自分で対応していたが、手に負えなくなってきたのでお願いしたい」という相談が寄せられるのですが、そういった状況になってしまっていると、できることがかなり限られていたり、相手方がいる場合には相手方の感情を相当害しているなどの理由から、対応が困難なことが多くなってしまいます。そのため、事態が複雑化する前に、できれば問題を認識した段階で早期に相談をしてもらうことが重要と言えます。

 

(2)関係のありそうな書類の準備を

弁護士が的確なアドバイスをするためには、どういう事実関係があるのか、どういう証拠があるのかを把握することが必要です。弁護士の仕事の一つは、ある事実関係を前提にどういった法的構成を取ることができるのかを考えることにあります。相談者の言い分だけを前提にしてアドバイスをすることは、最終的な結論を見誤ることにつながりますし、言い分を裏付ける証拠等がないと、「言い分を前提にすれば」とか「あくまでも一般論として」という留保をつけた回答しかできません。証拠の持参がないと再度相談に来てもらうなどの手間が発生することもあります。

「何が証拠になるのか分からない」ともよく言われますが、証拠とは契約書や請求書といったものだけでなく、相手とのやりとりをしたメール・LINE・DM等、自分が取っていたメモや日記、会話を録音していた場合はその録音データ等、基本的に何でも証拠になり得ます。自分ではあまり重要ではないと思っているものでも、弁護士から見れば重要な証拠と捉えられる場合もあります。そのため、相談に行く際は、少しでも関係がありそうなものは一式持参してもらうのが無難です。

なお、インターネット関連の事件の場合は、事前に問題と考える対象のURLを調べておく、それを適切に証拠化するといったことをしておくとよいでしょう。

 

(3)時系列や関係図の準備を

弁護士が事実関係を的確に把握する上では、何がどのような順番で起こったのかを知ることが役立ちます。相談者として一番重要だと思うことや、印象的だった出来事を、その際にどう思ったのかといったことを含めて説明しようとする方も多いのですが、それだとどういったことが前提としてあったのかが分からなかったり、弁護士からすればいきなり見知らぬ登場人物が出てきたりして、事実関係や人物関係の把握が困難になってしまいます。

そのため、まずは感情的なものは横に置き、登場人物が誰であるか、それぞれがどのような関係なのかをまとめるとともに、問題の経緯を時系列に沿って整理するとよいでしょう。もちろん、完璧に正確なものを作ることは必要なく、概略どういったことがあったのかをまとめるだけでもよいでしょう。

なお、インターネット関連の事件の場合、トラブルは相当狭いコミュニティで起こっていることも少なくないのですが、相談者はそのコミュニティで起こっていることは「当然相手も知っていること」と思い込んでいることも多くあります。その結果、登場人物やコミュニティ独特の表現・言い回しや、何が原因でトラブルになっているのかといった点の説明がないなど、事実関係の把握に苦慮することが非常に多くあります。そのため、こういった点の説明資料を準備するなどするべきでしょう。

 

(4)不利なこと等も隠さずに

法律相談においては、自分に有利な結果を聞きたいとの思いから、あるいは話すのが恥ずかしいといったことから、事実関係の一部を隠して説明をする方がいます。法律相談時は自分にとって有利な回答を得ることができて満足できるのかもしれませんが、後から不利な事実が発覚した場合、リカバリーが不可能になってしまうこともあります。不利なことを隠すために嘘をついてしまっていることもありますが、嘘については非常に厳しい対応が取られてしまうことも少なくないので注意が必要です。

最初から不利なこと等も説明をしてもらえていれば、その不利なこと等に踏み込まなくてよい法的主張を組み立てたり、相対的にその事情が無関係になるような法的主張を組み立てるといったこともできるかもしれません。したがって、不利なこと等も隠さずにありのままの事実関係を説明するよう心がけてください。

なお、弁護士には職務上知り得た秘密を漏洩してはいけない義務が法律上課せられており(弁護士法23条)、相談した内容が外部に漏れることはないので、安心して相談をしてもらえればと思います。

 

(5)どういう解決を望むのかの検討を

法律相談をするということは何かしら解決したいことがあるということでしょうが、どういう解決を望むのかについてはあらかじめ考えておくとよいでしょう。解決したい方向性があるのであれば、それに向けた法的構成やアドバイスを考えることになるため、それがないとアドバイスの内容などがブレてしまい、適切な回答ができないことがあり得るためです。

そもそもどういう解決方法があるのかが分からないということもあり得ると思いますが、その場合であれば、どういう解決方法があるのかを率直に質問をしてもらえれば、弁護士から通常あり得る解決方法の説明をすることもできます。そのため、相談の目的や結論を先に話してもらうのが、お互いにとって行き違いがなくなりよいのではないかと思います。

コラム著者プロフィール
しみず・ようへい
2010年「法律事務所アルシエン」開設。
インターネット上の問題に早くから取り組み、先例的な裁判例が多くある。
著書・共著も多数。
漫画「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」監修を担当。