水無月さらら/作
宝井理人/イラスト


2015年2月20日
旧制高校純愛
シリーズ名 花丸文庫BLACK
作品名 桜ノ国〜キルシュブリューテ〜
巻数 全1巻
作家名 水無月さらら/作 宝井理人/イラスト
本体価格(税別) 676円
判型 文庫判
内容 子供のころに、書生に弄ばれた過去が影を落とし、文弥は対人恐怖症になってしまう。そんな文弥を同室のエルンストが甘やかすが、その優しさすらも友情以上のものだと知り……旧制高校ロマン!
ISBN ISBN978-4-592-85128-8


P80〜P83より抜粋

「こいつはオレのものだ」
 噛みつくように惣一郎は言った。
「オレに断りなく、触らないで貰おうか」
「では、断ればいいのかな?」
 賢しらに返した八巻に惣一郎は大股で近づくなり、広げた掌で装着している眼鏡ごとその顔面を覆った。全ての指に力を入れながら、歪んだ声で言う。
「黙れっ」
 眼鏡の縁がへしゃげ、外れたレンズが床に落ちた。
 額と頬骨を押さえられ、唇と鼻を半分塞がれた八巻は、痛みと息苦しさで唸るだけだ。剣道で鍛えた握力は、躊躇いなしに八巻の顔面を破壊しかかる。
 およそ一分──八巻にはその何十倍も長く感じられただろう。惣一郎が手を放したとき、彼はへなへなと床に崩れた。
 惣一郎はそんな八巻を一顧だにすることなく、縛りつけられたかのように椅子から動けないでいる文弥のほうへと踵を返した。
 文弥の口から血が溢れていた。
 それを目にした途端、惣一郎は冷静さをすっかり失った。血走った目を文弥に向け、強い口調で責め立てた。
「こいつとこんな場所で二人っきりになったら、どうなるかくらい想像がつくだろう? ここに入ったことで、お前はなにをされてもいいと身を投げ出したんだぞ」
「そ…そんなつもり──」
 涙だらけの顔で、文弥はいやいやと首を横に振った。
「まず、オレのところに来れば良かったんだ。なぜ一緒に来てくれと言いに来ない。オレは頼りにならないか?」
「……め、迷惑になる…もの」
「オレにどんな迷惑がかかろうと、お前が無事なほうがいいに決まっている。せめてすべきことをしてから、諦めろ。諦めが早いのは長所ではないぞ」
 惣一郎は文弥を掬い上げるようにして椅子から立たせ、その顔をじっと見下ろした。
 ふっと瞳が和らいだ。
「いや、お前は諦めなかったんだな」
 血まみれの唇を指で辿る。
「口づけは許さなかったのか」
 こくりと頷く。
 惣一郎は文弥をぎゅっと抱き締めた。
 自分の胸に押しつけながら、聞いた。
「されたことを言え。オレがそれ相応の報復をする」

続きは文庫で読んでくださいね。