とある弁護士の本音のコラム
- 第20回 いろんな事件・できごと(最終回)
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遠隔操作ウイルス事件
2012年、インターネット掲示板「2ちゃんねる」を介して、複数人のパソコンが遠隔操作され、これを踏み台として犯罪予告が行われるという事件がありました。当初は遠隔操作されたことが不明だったこともあり、投稿時のログを手がかりに捜査がされ、複数人が逮捕されました。全員が否認したものの取調べの過程で2名が行為を認めたため、起訴等がされましたが、その後遠隔操作されていたことが明らかとなり、起訴が取り消されるなどしました。
この事件は、真犯人が謎かけのようなことをして世間のリアクションを楽しむような様子が見られたこともあり、当時かなり報道されたのですが、実際にやっていない者が自白して起訴までされたということについて、取調べの経緯などを含めて問題視する報道もされました。
個人的な経験と感覚に過ぎないのですが、この事件以降、一時期は、被疑者不詳だと警察では捜査ができないと明確に言われたこともありますし、被疑者不詳で告訴をしようとしても、警察が自ら捜査をして被疑者を突き止めるという作業をなかなかしてくれなくなったように思います。
プロバイダも間違うことがある
発信者情報として開示された者が、実際には発信には一切関わっていなかったことが後から判明することがあります。発信者情報開示請求は、基本的には通信記録を辿っていく手続きであり、IPアドレスが一人1つ割り振られるといったものでもないため、その辿る過程で間違いが発生してしまうことがあるためです。同じIPアドレスを複数人に同時に割り当てることも行われており(最近はIPv6が普及し始めたことから減少はしていると思われます)、その関係で間違って「特定」されてしまう人が、技術上、不可避的に生じてしまう場合もあります。
開示された情報をもとに請求をしてみたところ、「この人は本当に無関係だろう」と状況等から判明することは稀に生じます。そのため、「発信者」であるとされてしまった者が本当に全く身に覚えがないということであれば、プロバイダ等に再調査を求めてみるのは一つあり得る手段といえます。
私も、開示された人が無関係だろうと想定された際に、プロバイダに対して再調査を依頼してみたところ、特定作業が間違っていたとして別の者が開示されたことがあります(なお、再度開示された方は発信者でした)。
他人から知られてしまうのか
特定されて訴えられた場合、そのことが他人に広く知られてしまうのではないか、と考えている方もいるようですが、そのような事例はそれほど多くはないといえます。日本中で日々多くの訴えが起こされているわけですが、そのほとんどが報道されることはありませんし、訴え自体も郵送で訴状等が届くのが普通なので、それが他人に知られるということは通常ありません。
また、訴えられたとしても「前科」がつくわけではありません。「前科」とは有罪判決を受けた履歴のことを指すので、民事上訴えられたとしても、それで前科がつくことはあり得ません。
仮に逮捕等されたとしてもそれだけで前科がつくわけではなく、有罪判決を受けて初めて前科がつくことになるため、示談をするなどして不起訴になるか、無罪になれば前科はつきません。そして、逮捕等された場合でも、実名報道がされなければ広く知られるということはなく、ネット中傷事案においては実名報道される例はそれほど多いわけではないといえます。
したがって、一般的には、他人に広く知られる可能性はそれほど高くはないといえますが、相手が有名人などの場合には報道される可能性は相対的に高くなりますし、逮捕等されれば身近な人たちはその状況を一定程度把握することにはなります。そのため、他人に知られることはないと高を括ることがないようにしておいた方が良いといえます。
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- コラム著者プロフィール
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しみず・ようへい
2010年「法律事務所アルシエン」開設。
インターネット上の問題に早くから取り組み、先例的な裁判例が多くある。
著書・共著も多数。
マンガ・ドラマ「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」監修を担当。
