島田 明・亀嶋 淳司 島田 明・亀嶋 淳司

まんがと絵本を得意分野としている白泉社。入社すれば、まんがづくりに携われる可能性はとても高いです。実際にまんが好きとしての夢や憧れを叶えている社員が何人もいます。取締役の島田明とコンテンツビジネス部課長の亀嶋淳司は『ヤングアニマル』の元編集長同士。長きにわたって青年まんがの編集者として関わってきたそれぞれの経験から、まんがづくりの魅力を紐解きます。

対談の後半には、島田が担当してきた大ヒット作『ベルセルク』についての秘蔵エピソードも。白泉社の強み、一緒に働きたいと思う人物像とリンクするフレーズが盛り込まれているので、ぜひ採用試験の参考にしてみてください。

入社1年目でもおもしろい作品をつくれる
メソッドがある。


島田:さて、何から話そうか。

亀嶋:白泉社の特徴というか魅力からいきましょうか。ウチは専門的な出版社に近いので、ずっとまんがに携われるのはいいですよね。『ヤングアニマル』みたいな青年まんがは自分の好きな作家を連れてきて、その人の作品をつくれる。自由度が高いというんですかね。

島田:そうだね。自分で仕事をつくれるというか。入社1年目、2年目でもおもしろい作品をつくれる。そして、その延長にあるヒット作を手にすることも可能だと思う。

亀嶋:まんがを好きであれば、ある程度はつくりたい作品のイメージもあるでしょうから、そこからスタートダッシュができるんですよね。気持ちさえあれば、より良い作品をつくるためのメソッドはそれぞれの編集部にあるわけじゃないですか。

島田:白泉社を志望してくれる人たちに、青年まんがをつくりたいという強い気持ちさえあれば、我々にはそれを技術的にフォローできるメソッドがある。

亀嶋:読み入るまんがに仕上げられるというか。素人がつくるまんがには絶対にならないですから。

島田:まんがをつくりたい気持ち。僕の場合で言うと、子どもの頃は娯楽がまんがかテレビしかなかった。テレビ番組をつくりたいとは思わなかったけど、まんがはつくりたかった。まんがっていろいろなものがあり、ファンタジーから人生を支えてくれるような作品まで。まんがが持っている地平は豊かだと思う。そういう意味でも自由度が高くて。

亀嶋:これは映画好きの作家さんと話して印象に残っていることなんですけど、映画の世界は技術、監督といった具合に仕事が細かく分担されてしまっている。でもまんがづくりはそうではないじゃないですか。

島田:わかる。まんがはアイデア、設定、脚本、キャラクター造形、コマ割り、演出……その作品を表現する世界観を全部つくれるし、まんがの特徴である「読むリズム感」と「見開きの構成」も加わるから、とてもやりがいがある。

亀嶋:僕らが関わるのは作家の領分以外の部分なわけですけど、描くこと以外は一緒に携わりますからね。

島田:ほとんど多くのエンターテインメントはひとつの案件に大人数が関わっている。まんがは編集者と作家の二人だけでつくれるし、決めることができる。あとは編集長のOKさえもらえれば世の中に発表できる。作家に対する責任はとても重いけれども、やりがいは感じるし、成功した時の嬉しさは何物にも代えがたいと思う。

亀嶋:そうですね。年次の問題ではなくて、ヒット作さえつくることができれば視界が一気に広がるわけじゃないですか。1年目、2年目であろうと。

島田:現に白泉社にも何人かいるからね。

亀嶋:すぐ一人前になれる。まんがをつくるということに対して構えてこなくても、気持ちさえあればなんとかなると思いませんか?

島田:うん、そう思う。1、2年目の若い編集者で自然とできている社員はいるからね。そこに先輩たちが培ってきたテクニカルなメソッドと経験が乗れば、さらに補強になるのは間違いないことだから。

理想のまんが編集者は、
まんが以外にも好きなことがある人。


亀嶋:まんがを好きという気持ち以外に持っていてほしいものってなんでしょうね。

島田:やっぱり、自分が会ってみたいまんが家の存在はいてほしいよね。

亀嶋:たしかに。新卒1年目でも白泉社の肩書を持っていれば会えるわけじゃないですか。それを使わない手はないですよ。

島田:まったくそのとおりだね。やっぱり自分が読んできた好きな作家に会うのは緊張するけど、ある種の気持ちいい緊張だよね。

亀嶋:ファンとして会うんじゃなくて、一緒に仕事して自分に向けてまんがを描いてもらう。そのためにコミュニケーションをとるということは、何ものにも代え難いですよね。

島田:本当にそうだと思う。多くの作家は相手の編集が若くてもちゃんと話を聞いてくれる。これはうれしいことだよね。

亀嶋:門前払いは聞いたことがないですね。

島田:作家は自分が持っていないものを求めているところがある。

理想のまんが編集者は、まんが以外にも好きなことがある人。

違う考え方や若いエネルギーを。まんがの世界は本当に若いうちから真剣勝負ができるから、作家に対するリスペクトがあれば楽しい仕事だと思う。作家は自分が知らない知識や経験をどんどん吸収しようとするから、自分の好きな世界のおもしろさを伝えられれば、作家はよく聞いてくれると思う。巧みなトークじゃなくても。

亀嶋:自分が「つまらないかもしれないな……」と思っていることでも言葉にしたほうがいいんですよね。

島田:うん、喋らないのは良くない。

亀嶋:自分から気持ちのシャッターを下ろさずに、いっぱい喋ってほしいですね。

島田:スポーツ、音楽、演劇、美術、映画、小説、お笑いでもいいし、いろいろな好きなことがあって、まんがもものすごく好きというか。そんな人がいいかなぁ。よく40人くらいのクラスに例えて話すんだけど、自分の好きなまんがを友達におもしろいからと読ませて、それがどんどん広がって40人全員がおもしろいと言ってくれたら楽しくなる。その40人のクラスが世の中になったと思えばいいんだよね。

亀嶋:責任以上に楽しさのほうが勝る仕事だと思いますね、明らかに。僕らの仕事は独りぼっちじゃなくて、作家との共同作業じゃないですか。悲しさ半分、うれしさ二倍。その感じがよくわかるんですよ。

白泉社は
まんがへの熱量を受け止めます。

白泉社はまんがへの熱量を受け止めます。

島田:自分が好きな作家って、ある程度出来上がっている人だよね。その人と組んで仕事するのも楽しいんだけど、未熟な自分と未熟な作家、同い年くらいの者同士が一緒になって頑張る。その関係で成長していくというのは、ベテランと付き合うのとは別の楽しみがある。これは深い絆になっていくと思う。経験してわかったことだけれど。

亀嶋:それで言うと、編集者には作家がまんがに注ぐ熱量に勝てるくらいの熱量がほしい、ということもありませんか。

島田:作家とネームの打ち合わせをするときに、過去のまんがを参考にして話すことが多いじゃない? 作家のほうから「このまんがのこんなシーンで」という話が出てきやすいけど、それがわからないと、なかなか成り立たない部分もあるよね。

亀嶋:共通言語みたいなところはありますから。

島田:もちろん全部を知ることはムリだけれど、過去の名作には本当にまんが作りの勉強になる作品が多い。

亀嶋:逆に言えば、友達が付いていけないくらいにまんがの熱量を持っていれば、それを受け止めてくれますからね。作家だけでなくウチの会社も。

島田:そう思う。僕が『ヤングアニマル』の編集長だった頃、編集部に小さな図書館をつくってさ。まんが編集たる者が読んでおくべき名作や過去作を置いた。新入社員が入ってきたら、読んだことのない作品を家に持ち帰って読んでもらって。それも今思えばメソッドの一環だよね。

作家の身近にいる、
編集者にしかわからないことがある。

作家の身近にいる、編集者にしかわからないことがある。 作家の身近にいる、編集者にしかわからないことがある。

セスタス表紙

島田:自分が担当した作品のコミックスが発売されるとき、有名人にコミックスの帯に入れる推薦文を依頼することもあるでしょう。たとえば、「セスタス」という古代ローマ帝国を舞台に少年奴隷が拳闘だけで生き抜くというまんがの場合は内山高志選手、山中慎介選手、亀海喜寛選手、八重樫東選手といった、錚々たる当時の現役ボクサーの方々や、現役ではなかったけど、あの具志堅用高さんにも書いて頂いた。亀海選手には4月から始まるTVアニメで格闘シーンアドバイザーとしてスタッフに入ってもらった。

亀嶋:井上尚弥選手にもインタビューをお願いして『ヤングアニマル』本誌に記事を掲載しました。当時はまだ期待のホープでしたけど、今はものすごいビッグネームになられて。

島田:拳闘やボクシングが好きだから、この選手に会ってみたい。自分がつくったまんがを読んでほしい。そんな気持ちがあって、帯にコメントをもらえたりするとうれしいよね。

亀嶋:とんでもない人にも声を掛けられるんですよね。


島田:ミュージシャン、政治家、文化人、スポーツ選手だっていける。実際に著名な人たちに会うと、すごくうれしい以上に勉強になるしね。

亀嶋:いろいろな人を巻き込んでいくと、少しずつエネルギーを帯びていく作品になりますよね。ドラクエじゃないですけど、青年まんがは仲間集め的な要素が多い感じがします。実際に僕は人脈が相当広がりましたから。島田さんは「ベルセルク」の担当編集として、作品が大ヒットしていく過程に携わってきましたよね。

島田:三浦先生の仕事場は最初の頃狭くて、資料や原稿が広がっていると足の踏み場もないぐらいだった。その仕事場で365日必ず机に向かっている。打合せではしっかりと喋るけれど、視線は原稿用紙の上からそらすことはほとんどなかった。あまりの鉄人ぶりに、ここまでやらないとベルセルクは成り立たないんだと思ったし、表現者の凄まじさを感じた。

亀嶋:やっぱり、作家のまんがに対する努力や熱意はすごいですよね。

島田:当時は、ネーム・下描き・ペン入れ・完成の4回をひとつの原稿でみていたけれど、あきらかにクオリティと「熱」が上がっていくのがわかる。この後ろにいくほど、良くなっていく作品には勢いがあって、ヒットする可能性がとても高いと思う。何を当たり前なと感じる人が多いと思うけど、完成するに従って何か良さが薄くなる作品は結構あると思う。これはまんが編集でないと実感できない。

亀嶋:絵が仕上がっていくなかで、僕達はそれを見たいがためにサポートするというか。

島田:担当編集者は作品と作家ををリスペクトしながらだけれども、いろんなことに気づいてほしい。作品が完成する前に直すことができるのは、作家と担当だけだから。また担当の判断が遅くなることは、作家の時間を無駄遣いしているのだと自覚して取り組んでほしい。
そして、仕上がった作品は1円でも多く作家の収入に結びつけるという仕事かな。その時々の出会いみたいなものはとても大事なものだし、アニメになったときは平沢進さんというアーティストさんに主題歌を書いてもらって。今でも付き合いがあって、ずっと作品を提供してくれているのはとてもありがたいことだよね。

亀嶋:1月30日(※)から始まる「大ベルセルク展」にも繋がりますけど、原画展の開催にあたって平沢さんからもコメントをいただいて。それを見たときに、ベルセルクを知らなかったけど、自分の引き出しを開けるだけで曲がつくれる作品だったという話があったんです。こういう共感もあるんだなって改めてうれしくなりました。

島田:それはおそらく三浦先生が平沢さんの音楽を聴きながらまんがを描いていたからだと思う。まさに共鳴したんだと思う。

(※対談中にある「大ベルセルク展」は、緊急事態宣言の発出を受け延期いたしました。新日程は決まり次第原画展公式サイト等で発表します)

島田:原画展で言うと、会場の広さがとてつもないよね。

亀嶋:通常行う原画展サイズの3倍くらいはあるんじゃないですかね。そこに飾れる原画や造形物がいっぱいあって、原画は厳選して、それでも300枚以上、あとはフィギュアの大きさも影響していますかね。

島田:ベルセルクのフィギュアはめちゃくちゃデカいんだよね。日本の家には合わない大きさ(笑)。巨大ゾッド像を降臨させるためのクラウドファンディングも企画したけど、ありがたいことに1,300万円以上の支援をいただいて。

亀嶋:他のクラウドファンディングと比べて、支援者の方たちからコメントをいただく率がかなり高かったらしくて。会場には来られないけどベルセルクのために、という感謝を含めた支援も多かったですし、外国の方からの支援もありました。

島田:三浦先生が机に向かっていたものが伝わっているんだろうね。かっこいいシーンが多いからだと思うけど、一場面を切り取ることが多いフィギュアに関して言えば、立体物をつくるクリエイターの魂に火を付けるのだと思う。そして世界中にファンがいるからこそメーカーさんにちゃんと商売として成り立つと考えてもらえることがうれしい。それと入社希望者には、原画をぜひ鑑賞してもらいたい。たとえばこの見開き原画の持つ迫力を直に感じてほしいし、カタルシスを絵で表現するということがよくわかると思う。



ベルセルク

白泉社には"とてつもない恍惚"を
つくれる土台がある。


亀嶋:就活生にはヒット作に関わりたいという気持ちがあると思うんですけど、現時点で白泉社には「ベルセルク」や「3月のライオン」だったりと、幾つもあるところも魅力に感じて欲しいですね。

島田:これは理想を醸し出すのではなくて、わかりやすく伝えたい。とにかくまんがをつくりたい、特に青年モノをつくりたいという意志がある人には白泉社がオススメ。まんがをやりたいならウチに来てほしい。繰り返しになるけど、ヒット作はあるし、編集部にはそれをつくるためのメソッドがあるから。

亀嶋:そうですね。気持ちだけ持ってきてくれたら。努力しただけ作品はおもしろくなって売れますし。失敗してもすべてが糧になりますから。

島田:三浦先生も「白泉社に入る人は大前提としてまんがが好きですよね」って信頼してくれる。だからこそ作家と編集者とで会話ができるんだって。ウチには元まんが家志望の編集者もいるしね。まんがから受けた恩を返せるというか。

亀嶋:まんが好きには、若い頃に受けた影響を伝えたいみたいな気持ちもあると思います。

島田:ジャンルはなんでもありだし、自分の気持ちが揺れ動いたものをつくってもらえたらと。ぜひ自分が担当したコミックスが出たときには、その発売日に書店に見に行ってほしいよね。

亀嶋:発売日はずっと書店の売り場を見ていられるほど楽しいですね。コミックスが積まれた平台から自分の担当作品だけが減っていくと。それとSNSで自分の担当作が話題になるとうれしいですしね。

島田:自分の知らない人たちが買っていくわけだから、あれはとてつもない恍惚だよ。そういう楽しみをつくれる土台が白泉社にはある。バブルの頃にいろいろな出版社が青年まんがをやり始めたけど、ほとんどが撤退してしまった。まんがは効率を大前提としたつくりに耐えられないコンテンツだと思う。まんがはそれをつくっている版元じゃなければできないことだから、やっぱり出版社に入るのが一番だと思う。白泉社の持っている力を利用してもらって、おもしろい作品をつくってほしい。まんがが好きであれば、つまらないまんがなんてつくりたくないはずなんだよ。

亀嶋:好きなことだからこそ妥協しない。その気持ちは作家もまったく一緒であって。その二人三脚感がたまらない仕事だと思います。


白泉社にはとてつもない恍惚をつくれる土台がある。
白泉社にはとてつもない恍惚をつくれる土台がある。