LaLa編集部の LaLa編集部の

『LaLaDX』の人気連載「ヴァンパイア騎士 memories」と月刊『LaLa』の新連載「ミミズクと夜の王」。
この2つの作品を担当している編集者は入社2年目の山田久瑠実です。根強いファンに支えられる長期作と、スタートして早くも話題となっている原作モノ。そのどちらも山田にとって特別な担当作品ですが、それぞれに彼女ならではのユニークなエピソードが詰まっています。「好きこそものの上手なれ」を体現する少女まんが誌編集者、その担当作から見える仕事の醍醐味とは。

大好きな作品の担当編集に。

大好きな作品の担当編集に
漫画の表紙

中学生の頃、国語の授業で本の帯をつくる宿題があったんです。自分の言葉で本の魅力を書いて、それが多くの人の目にとまることで、人の手に渡っていく。それってめちゃくちゃ楽しい仕事だなって思いました。

小説と同じくらいにまんがが大好きで、私にとって白泉社のまんがは中毒性が高い作品が多い印象でした。人生で最初にハマった少女まんがが「ヴァンパイア騎士」で、いつかは女の子を夢中にさせる作品をつくりたいという想いから白泉社に入社したんですね。配属はLaLa編集部でしたが、まさか「ヴァンパイア騎士 memories」の担当になれるとは思いもしませんでした。色々なところで大好きだと言い続けていたら、編集長が担当に推してくれたんです。2年目の今も「ヴァンパイア騎士 memories」の担当を継続できていて、本当に嬉しいですね。

「ヴァンパイア騎士 memories」は「ヴァンパイア騎士」を好きだった読者のための作品なので、まさに私のような読者のための作品だと思っています。いい意味で私と読者がすごく重なっているので、樋野まつり先生には素直な感想を伝えるようにしていますね。「ヴァンパイア騎士」を好きだった人はこういうものを読みたいと思っているから、こんなものを描いてほしいとか。樋野先生はベテランだけれども、先生の中で生まれたちょっとした不安や迷いを相談してくださるんです。そんなときは「絶対大丈夫です!」と背中を押したり、「この感情をもっと掘り下げてほしい」という提案もします。ただ、とにかく作品のことを好き過ぎるので、オタクに寄り過ぎないように気をつけています。

野望と焦りが交差して生まれた
最高の結果

野望と焦りが交差して生まれた最高の結果

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2020年11月号から掲載されている「ミミズクと夜の王」。私はこの作品の担当編集でもありますけど、もともとは原作小説を高校生の頃に学校の図書室で読んだんです。それ以来、ずっと好きな作品になっていて、いつか何らかの形で関われたらいいなと思っていて、ある時に「どうして、まんがにもアニメにもなっていないんだろう?」と疑問を感じたんですね。原作者の紅玉いづき先生のご意向なのかなと思いつつも、編集長に「ミミズクと夜の王」をコミカライズしたいという想いを伝えました。ちょうどそのタイミングで、紅玉先生がコミティアに同人誌を出版して、会場にいらっしゃることをTwitterで知ったんです。これは会いに行けばいいんじゃないかと思って、ファンレターと名刺を携えて会いに行ったんですね。


会場ではじめて紅玉先生とお会いできて、白泉社で働いていることと、先生の原作と関わりたい夢をお伝えしたら、アニメ化もコミカライズも嫌ではないことがわかって。その話を持ち帰ったら、編集長から版元であるKADOKAWAさんに連絡をとってくださって、『LaLa』での連載が決まっていきました。当時の私は編集者としての野望が膨らんでいて、いい感じに焦っていたんです。「『ミミズクと夜の王』のような良い作品は他社に取られてしまう。いま私が取らないと」という気持ちがうまく噛み合った結果なんだと思っています。

「ミミズクと夜の王」は、いい意味で少女まんがっぽくない作品なんですね。夜が深く、森が鬱蒼としていて、静寂が満ちている…その世界観を描けなければ絶対にダメという想いから、私が担当している鈴木ゆうさんという作家さんに描いていただくことを決めました。鈴木さんは新人作家さんでしたが、背景の描き込みが有機的で素晴らしくて、世界観を絵で表現するのが抜群に上手いんです。鈴木さんはそれまでは読切作品のみ、雑誌ではカラー作品を描いたことがありませんでした。でも、同人誌などで描いていたカラーがめちゃくちゃ上手なことを知っていたので、編集長にプレゼンしたところ、巻頭カラーで連載スタートすることが決まったんです。

「ミミズクと夜の王」の原作は小説なので、まんがと違って地の文があります。主人公のミミズクは台詞が拙くて、それだけでは彼女が何を考えているのか伝わりづらい部分があるんです。小説ではそれを地の文で表現していて、そこに紅玉先生の魅力が詰まっているんですよ。語り口調や句読点の位置で情緒を掻き乱してくる。それをまんがでどう表現するのかは鈴木さんと慎重にすり合わせていますね。鈴木さんは言葉にしないと伝わらない感情表情を些細なコマで表現してくださるので、ネームが届くたびに驚いています。
感性の鋭さと、表現力が本当にすごいなって。

1から100に高めることも
編集者の仕事

1から100に高めることも編集者の仕事

もうすぐ入社3年目ですが、私にできることはまだまだ少ないですね。そんな力不足を自覚しているからこそ出会える最高の瞬間があるんです。「あなたが描くキャラ、シーンのここが好きなんです」と、私が伝えたことが作家さんの糧になって、素晴らしい作品が出来上がる。その瞬間に、編集者になってよかったなと実感しています。

小説が原作の「ミミズクと夜の王」はゼロからつくるまんが作品とは違って、原作の流れを汲み取りながら、よりまんがでしかできないことを発信していく作品です。なので、ゼロから1をつくるのではなく、1から100に高めていくことが担当編集者としての私の役目だと思っています。1を100にする見せ方、発信の仕方を考えて売ることを頑張らなければならないし、そこでも戦えるんだということに気付けてワクワクしていますね。原作が大好きないちファンとしても、トビラや帯の煽りを通して、作品の良さを一言で表すのはおこがましいと思いつつも伝え続ける。それをやるほどに好きになっていくんです。

いつかは大ヒット作を出したいですね。何がきっかけでハネるのかはわからないけど、『LaLa』のターゲットである学生から自分の年齢が離れていくことに危機感を感じているんです。だから、歳が離れていっても読者感覚というか、今の女の子の好みや悩みをキャッチして、その子がゾッコンになれる作品をつくって売りたいなと思いますね。昨日も作家さんと「JKってこんな理論的に物事を考えないですよね」って議論しました(笑)。



月間LaLa表紙
月間LaLaDX表紙
上手に遊んで、僕をおもしろいと思わせてほしい。

あなたに告白したいこと。

私は好きなものの範囲が狭くて深くて、入社するまでは自分に編集者なんて務まるわけないと思っていました。今でも自分は編集者に向いてるのかな、まんがのことを分かっていないなと打ちのめされることもあるけど、それでも人生で経験したことがまんがに活きる瞬間が絶対にあるんですね。その瞬間に、しんどいことなんて全部飲み込めるというか。格別に美味しい瞬間が絶対にあるんです。私は入社してから2年間でいくつかのそれを味わえたので、その気持ちを忘れずにいればなんとかなるはず。そう思い続けられる職場なので、編集者になりたい人はぜひ白泉社へ。

人生の経験は、まんがに必ず生かされる。

シマ? 誰だろう……?

LaLa編集部に配属された当初、電話を取るのがすごく嫌で緊張していたんです。早い人は0.5秒くらいで取るのに、私にはなかなかできなかった。あるとき、作家さんから電話がかかってきたんですね。作家さんがフルネームを伝えないのは編集部みんながわかっていることなのに、私は「シマですけど」と話す電話口の声に一瞬、「シマ?誰だろう?」と固まって、「折り返しますので電話番号を教えてください」と返してしまったんですよ。その方は怪訝そうに電話番号を教えてくださったけど、電話を切った直後に「もしかして、縞あさと先生……?」と気づいて、その場に埋まりたくなりました。今は何のためらいもなく電話に出られるようになったけど、入社1年目ならではの恥ずかしい失敗談です……。