『少年ハナトユメ』制作班の告白 『少年ハナトユメ』制作班の告白

2020年9月、少女まんが雑誌『花とゆめ』の増刊号にあたるweb限定の少年まんが雑誌増刊『少年ハナトユメ』が誕生しました。「新世代のヒーローはここにいる!!」という力強いキャッチコピーと共に、誌面にはバトル、ファンタジー、青春ストーリー、コメディなど、webならではの野心作や意欲作が展開されています。少女まんがの編集部がつくる新しい少年まんが。第2号を発売したばかり(2月20日先行配信・3月5日一般配信)の『少年ハナトユメ』チームが創刊からこれまでを振り返ります。

白泉社、ナメてんのか?

2020年9月に『少年ハナトユメ』を創刊できたけど、最初は2019年10月に僕が軽い気持ちで企画を出したことから始まっているんだよね。『花とゆめ』はジャンル領域が広い少女まんが雑誌だけど、いわゆる恋愛ものだけを売りにしていないラインナップが強みのひとつになっている。それをさらに広げていきたいという趣旨で企画を書いたことがきっかけになっていて。

僕は2020年6月に宣伝部から花とゆめ編集部に異動してきて、宣伝部以前は青年まんが雑誌のヤングアニマル編集部にいたから、あまり少女まんがの動きを深く知っているわけじゃなかったんです。他の宣伝部員からは『少年ハナトユメ』の情報を聞いていたけど、いざ異動してみると主に表紙まわりを担当することになって。もともとは少年まんがをやりたくて編集という仕事を選んだので、『少年ハナトユメ』に関われることは楽しみでした。

少年ハナトユメ2号

正直なところ、最初に『少年ハナトユメ』の企画を聞いたときは「いや、無理でしょ」と思いました。だって、白泉社に少年まんがをつくった歴史はほぼないし、社内にノウハウもないなかで感覚的につくっていくのは無茶だなと。ただワクワクはしました。普段とまったく違う考え方で仕事ができるので。

僕も平澤さんとほぼ同じでしたね。『花とゆめ』という少女まんが雑誌がありつつ、少年まんが雑誌を別につくるとなると、ジャンルがふたつに分かれることがかえって逆効果なんじゃないかって。あとは外から「白泉社、ナメてんのか?」って思われるんじゃないかと怖かった部分もありました(苦笑)。

『少年ハナトユメ』はデジタルの雑誌として創刊したけど、デジタルの営業の立場としては、第一印象はおもしろそうだなと思ったよ。編集部は大変だろうなと思ったけどね。『花とゆめ』で描いてくださっている若い作家さんたちも、最近は少年まんがを読んで育ってきた方が多いし、どんなものが出来上がるんだろうとワクワクしたというか。

そうですね。『花とゆめ』で連載している友藤結先生と千歳四季先生だけでなく、新人作家さんたちもノってきてくれました。

僕が『花とゆめ』で担当している作家さんたちに「今度、少年誌をやるんですよ」と話しても、「やりたい!」「おもしろそう!」という声がありましたよ。

白泉社、ナメてんのか?

内輪の盛り上がり
を世の中に届けるために。

僕は今回、『少年ハナトユメ』に特にテーマや制約が作られていなかったことが苦労しました。読者も男の子と女の子のどちらで考えたらいいのかなと。担当作家さんと話しながら探っていかなければいけなかったので大変でした。

『少年ハナトユメ』の読者を考えたとき、やっぱり創刊号を買ってくれるのは『花とゆめ』読者だろうなと思った。その次は、少年まんが好きな女の子と少女まんが好きの男の子。僕自身は妹がいるから少女まんがを普通に読んでいたし、妹も僕の少年まんがを読んでいたから、今の時代、そういう人たちは少なくないと思うんだよね。

実際に1号作ってみて、今はテーマを自由にカスタマイズできるところが楽しさに繋がっています。いろいろなジャンルを載せられるし、しかもwebだから反応が早いですし。これからジャンルが多岐に分かれていくと思うので、すごく楽しみですね。

僕は子どもの頃にほとんど少年まんがを読んだ経験がないんですよ。最近になって読み始めたくらいで。だから、少年まんがのあるべき姿が頭の中になかったというか。子どもが楽しそうだったらいいなという感覚で始めたので、不思議な少年まんがが並んだ感じがある。そういう意味では、少女まんがをつくる『花とゆめ』がやった意味が出ているのかなと。少年まんが雑誌に寄せようという気持ちはなかったですし。

僕は宣伝部にいたので、より多くの人に伝えるためにはどうしたらいいのかを考えました。友藤結先生に表紙を描いていただいたので、やっぱり『花とゆめ』を好きな人に知ってもらうことが第一だと思いました。少年まんがを好きな人を取り込んでいくのはこれから先の話ですね。僕らは白泉社にいるから、花とゆめ編集部が少年まんがを始めるという話題性はありますけど、世の中のニュースとしては思っているほどインパクトがないかもしれない。内輪の盛り上がりを世の中に届けるとなると、1号ごとに外部の作家さんを招いたり。今回は『花とゆめ』の人気作家さんを起用してフックをつくれたので、2号目以降も何かしらの仕掛けが必要かもしれませんね。

少年ハナトユメ1号

僕は新しい雑誌をゼロからつくるということは初めてだったし、デジタルもやったことがない領域だったから、どうしたらいいものかと迷いながら進めていった部分もある。これまで意識していなかったけど、ディスプレイの中での見え方がこんなに違うのかって。

特に表紙は紙のノリでつくると、文字数が多過ぎてスマートフォンで読めなかったりするんだよね。一番目立つ売りをはっきり出して、なるべく文字数を削いでいこうという話をしたよね。

プリントアウトしたら十分な大きさだと思ったけど、実際のディスプレイに落とし込んだら読みづらくて。中島さんのアドバイスを受けて、文字数をかなり減らしましたよね。必ずしもみんなが大画面で読むわけではないから。なるべく減らしたつもりでも、まだ多いと指摘されて。僕らは少女まんが編集部がつくったということを最初は小さめに謳っていたけど、それが売りになるということで大きくして。

そうそう。特に女性読者はスマホで読む人のほうが圧倒的に多いからね。それを前提にレイアウトしないとピンとこないということで調整してもらったという。

内輪の盛り上がりを世の中に届けるために。

『花とゆめ』では掲載できない
ラインナップ。

いざ創刊を迎えると、SNS上では「なに、それ?!」っていう反応が多かったよね。昔からの『花とゆめ』ファンには「そんなことをしなくても……」という声もあったけど、そういった意味でも話題になったんじゃないかな。新しいことを積極的にやっていこうとするのが今の白泉社なんだって伝わった部分もあると思う。

「#少年ハナトユメ創刊記念」と入れて感想をツイートしたら、表紙を描いてくださった友藤結先生の色紙が当たるという企画をやったら、それを目当てで買ってくれる人も多くて。デジタル雑誌は本屋さんに行ったら置いてあるものではないので、SNSとかで情報を届けないと流れていってしまうということは実感しました。読者アンケートも直接メールで届きますし、印象に残っているのは、平澤くんが担当している「五本腕の魔法使い」について連載希望の声が多かったことですね。
※2号から連載作品となりました。

五本腕の魔法使い

紙の雑誌では新人作家さんに言及されることって少ないじゃないですか。でも『少年ハナトユメ』は初めて商業誌に載る作家さんが多くて、新人作家さんが主役の雑誌になっていて。バラ売りもやっているからか、何を目当てで買ったのかもわかりやすいですよね。

『少年ハナトユメ』と『Trifle by 花とゆめ』というBL(ボーイズラブ)の電子雑誌も創刊したけど、後者では僕と平澤さんがメインのBLまんが「ご想像にお任せします」が掲載されているという(笑)。

ご想像にお任せします
Trifle by 花とゆめ

二人とも実名で、しかも花とゆめ編集部を舞台にしていて(笑)。

僕らはBLまんがの登場人物になったり、少年まんがも始めて攻めているというか。いろいろと挑戦しているので、連載作家さんから「白泉社が頑張っているから身が引き締まる」という感想が意外な方向から入ってきて。やってよかったなと嬉しかったです。

電子は回数を重ねてからが勝負だからロケットスタートはしづらい。そこで第1話を無料にして誘導していくのが数を増やすための常套手段というか。傾向としては、ブームの異世界ものの反応がいいかなと。翔悟くんが担当している「変剣武蔵」みたいな作品がどう受け入れられるのか興味があるな。

ネーム会議で「下ネタがいいよね」と言ってもらえたのは、普通の『花とゆめ』ではありえないというか、ありがたかったです(笑)。おもしろさのひとつとして受け入れられたのかなと。ギャグは少年まんがにあるべきジャンルだと思いますし。僕が異動して最初のネームが「変剣武蔵」だったので、『花とゆめ』の長い歴史として捉えると、「この作品はどうなんだろう……」という迷いもありました。

変剣武蔵

でも、フィールドが違えば全然アリだなと。ラインナップとしてバトルものにいきがちなところに、ああいう作品があるのはいいことだよ。

僕が担当している剣道まんが「剣、交われば」はまんが投稿サイトの『マンガラボ!』で1位をとった作家さんの作品の連載版ですけど、基本は女の子しか出てこないので、男の子にかわいい女の子を見てほしいという気持ちがありました。

剣、交われば
『花とゆめ』では掲載できないラインナップ。

こんな少年まんがもアリなんだよ。

デジタルは1話ごとにバラ売りできるから、それで稼いでいくのが強みなんだよね。ひとつヒットが出れば売上を担保できる可能性が高い。それだけ売上はバラ売りの比率が高いんだよ。

雑誌によってかけられる宣伝費は変わってくるじゃないですか。そうなると、まだ実績が少ない『少年ハナトユメ』は金より手間をかけるという話になってくる。だから、今回のハッシュタグの企画も広告代理店にお願いしないで自分たちでやったんですよね。読んでくれるであろう人たちを取りこぼさない『花とゆめ』のTwitterアカウントから発信できたのは大きかったと思います。

読者層がいい意味で固まっていない雑誌だから、作品がおもしろければ読んでもらえる。その中でこれからの基軸が定まっていけばなと。少年まんがのあるべき姿を特定しないというか。これもアリという新しい選択肢を提示していきたいですね。

そうだね。こんなまんがも載っていいというものを示していける場になっていけば。『花とゆめ』以外で活躍されている作家さんにも声かけていけたらと。

いい意味でカオス系の雑誌なので、いろいろな作家さんが描いてくれると嬉しいですし、僕はここから話題作をつくりたいです。

少年誌というカテゴリーだけど、性別関係なく読める雑誌というのは今の時代に合っているよね。回を重ねていけるタイトルをつくっていきたいし、新人作家さんを発掘しやすい媒体に育てていきたい。2月20日に出たばかりの第2号の反応も楽しみだね。

少年ハナトユメ2号
こんな少年まんがもアリなんだよ。
こんな少年まんがもアリなんだよ。
新しい少年まんがを一緒につくろう。

あなたに告白したいこと。

『少年ハナトユメ』はまだこれからの雑誌なので、ヒット作もこれから出てきます。一攫千金、ここで一旗上げられるチャンスの土壌があるので、一緒に高めあっていける新入社員の方を待っています。


首藤 啓太

首藤 啓太

首藤 啓太

僕らは手探りでやっているけど、編集しているときはめちゃくちゃおもしろいんです。未知のものへのワクワク感を味わいたい方はぜひ白泉社へ。


平澤 泰生

平澤 泰生

平澤 泰生

白泉社はいろいろなことができる会社です。少女まんがの編集部なのに少年まんがをつくれるし、青年誌っぽいものをつくって、まんがアプリのマンガParkで発表することもできたりする。自分のやりたいことができる場所だと思いますし、編集は読者として「なぜこの展開にしないのか」「こうしたほうがおもしろいのに」ということが言える仕事というか。それで自分のセンスを試したり、新しいものをつくれるやりがいがあります。


長谷川 翔悟

長谷川 翔悟

長谷川 翔悟

電子書籍はまだまだ発展中の媒体です。白泉社の身軽さを使えば、いろいろなジャンルにトライしやすいと思います。


中島 英貴

中島 英貴

中島 英貴

軽い気持ちで書いた企画が本当に形になって。不安はすごくあったけど、それよりも楽しいことがたくさんありました。少年まんがを少女まんが家が描いて、そこに携われる土壌が白泉社にはあります。ぜひ一緒に新しい少年まんがをつくっていきましょう。


長谷川 貴広

長谷川 貴広

長谷川 貴広