選考も二度目とあって、賞の傾向がはっきりしてきたように感じました。一次審査を受ける段階で、応募作のレベルも前回より格段に上がっています。ライトでファンタジックな設定を尊重しつつも、時代考証をしっかりやるという編集部サイドの姿勢もあり、新人を育てるという点でも筋道ができてきたように思います。

さて選考作ですが、まず『花街奇譚』が良い、という意見の一致をみました。第一にキャラクターにもストーリーにもめりはりがある。人物一人一人に対し、どのような性格にならざるを得なかったか、何を求め、何を失っているのかを土台にし、なぜそのような行動をするのかが、きちんと書かれています。世界観も時代考証も、自分が勉強して調べた知識に振り回されず、適度に書き込まれているので大変わかりやすいし、興味を惹かれてもっと読みたくなる点が多々ありました。吉原からの脱出劇に加えられる怪異の描写や展開にも、作者のセンスがあらわれていて高評価となっています。ここまで整っていると、ブラッシュアップもしやすい。より読者の応援心をくすぐるため、人物をさらに掘り下げるとともに、あるシーンで言及されたことが、のちのちのシーンの伏線となるようにするなど、出来事や心情が積み重なっているという感覚をもっと強めると、ここからさらに化けるでしょう。

次点となったのが『大江戸あやかし事件録』で、人形作りを通して怪異や人情話が織り交ぜられ、魅力的なキャラクターが次々に登場するという、作品の土台はできあがっているという印象です。ただその土台の上に建てるべきものを、まだ作者がしっかりとらえられていない点が見受けられました。シーンを印象深くしようとして、かえって何が起こっているかわかりづらくなるのも、そのシーンで何を最も伝えねばならないかが曖昧だからです。登場人物も、なぜそうするのか、なぜ今そこで登場するのかといった点を、より深く突き詰めることで、もとからある土台の上に、より強固で清新な作品を築いていけるでしょう。

惜しくも選外となった『時計師の休日』は、多方面の蘊蓄と、独特の語りが面白かったのですが、まったく同じ表現が繰り返されたり、登場人物の心情が似たような状態のまま推移するなど、全般的に起伏に欠けているのが難点でした。これも、何を書きたいかが曖昧であるためで、最重要テーマをしっかり見定めることで、独特の語りが活きるようになるでしょう