このたび栄えある第一回の審査に参加させて頂きました。応募数も多く、きわめてジャンルを限定された賞とは思えないほど多彩な作品が揃ったという印象です。

『女剣士の商家奉公顛末書』

は、半農半士の娘がとある事情から商家で働くというアイディアは大変面白いと思いました。もっと、商・農・士の格差や実態を学び、このアイディアに落とし込んで欲しかった。身分差を強調してこそ身分転倒の面白さが描けたはずで、ひいては主人公の動機や恋心も、より鮮やかに描けたはず。

『杏葉牡丹異聞』

は、逆にとてもよく学び、意外な歴史の裏側をかいま見せ、大いに興味を引かれました。地元にいる人間にしかこれは書けないと思わせる詳細で説得力のあるくだりは引き込まれますが、登場人物たちが互いに絡み合っておらず、物語として一貫性に欠けてしまっているのが大変惜しいと感じます。膨大な資料をもっと選別することで、出来事の列挙ではなく、実在した人々の共感を呼ぶドラマとして描き直せるはず。

『やっとうの神様』

は、ファンタジックな語り口が大変読みやすく、登場人物たちの性格も明確で、するすると飲み込むことができました。構成も達者で、導入から話の本筋に至るまで一切ストレスなく入り込めるのは大変素晴らしい。バランス型の大賞作品といいましょうか、物語のあらゆる要素を置くべき所に置いている。そのため、ここを直すともっと良くなるというポイントが浮き彫りになっていて、推敲を重ねることで磨きがかかることが確実な作品。ポイントは「分厚く・多彩に」すること。女性たちの描写、日本の神々の文化背景、主人公の動機を強化する出来事など、ふんだんに盛り込めば、さらに一段上の作品になる。シリーズ化が可能なほどアイディアを分厚く用意し、それらを全て使うのではなくじっくり精査した上で、これ一作が勝負、という気迫で完成させて欲しい。