樋口美沙緒/作
街子マドカ/イラスト


2016年11月21日
擬人化契約結婚
シリーズ名 花丸文庫
作品名 愛の在り処をさがせ!
巻数 全1巻
作家名 樋口美沙緒/作 街子マドカ/イラスト
本体価格(税別) 824円
判型 文庫判
内容 ハイクラスの身ながら短命な性モザイクで生まれたナミアゲハ出身の葵は、十八年間空気のように扱われて生きてきた。生きている間に、せめて誰かに必要とされたいと、性モザイクを探していたケルドア公国の大公・シモンとの縁談を受け ることにした葵だったが……
ISBN ISBN978-4-592-87744-8


P84〜87より抜粋

 「愛し合って産みたい? なぜそんなことを言うのか、理解ができない。なにを期待して私のところへ来たのだ。お前の役目は子どもを作ること。愛し合いたいなら、べつの相手を探せ」
 シモンは言い切ると、もはや話は終わりとばかりに、葵の足を持ち上げた。膝を折られ、陰部にまた、ぬっと杭を押しつけられて、葵はハッとした。
「……待って」
「口を閉じていろ」
 入ってくる陰茎の感触に、葵はびくんと震えた。
「俺を、道具以外には……思えないって、こと? 愛せないって、こと……」
 必死になって言い募る声が震えている。動きを止めたシモンは、青い瞳に嫌悪を浮かべた。
「貴様も同じことをしながら、なにを言う?」
 淡々とした声。言葉を失っている葵に、シモンは続けた。
「必要とされたいと言ったな。そのために、ここへ来たと。愛などという言葉で飾っているが、それは承認欲求だ」
 眼を見開いた葵に、シモンは冷たく言い捨てた。
「己の承認欲求を満たすために、周りを道具にしている」
 青い眼を細めるシモンの顔には、もう嫌悪すら浮かんでいない。張り付いた無表情で、ただ事実を述べるように続ける。
「誰も愛していないのは、貴様だ」
(……誰も愛していないのは、俺)
 シモンの言葉が、頭の中に何度も響いた。葵は、激しいショックに打ちのめされていた。
 違う、と咄嗟に言えない。見ないようにしていた事実を、突然突きつけられて、身動きできない。
 その刹那、シモンのものが、再び葵の奥へずんと入りこんでくる。
「あと四回、射精する」
 端的に伝えてくる声。腰を揺らして中を擦られ、体にまた糸を巻き付けられて、葵は「あ、あ……」と喘ぎはじめた。眼の前がぐらぐらとした。
 ──己の承認欲求を満たすために、周りを道具にしている。
 ……誰も愛していないのは、貴様だ。
(そんなこと、ない。俺は……愛したくてここまで来て……)
 けれど一方で、心の中の冷静な部分がこうも言っている。
 ──いいや。シモンは正しい。俺は誰も愛してないし……ただ、自分のためだけに、ここまでやって来たんだ。……ずっと、どこかでそのことに気づいていた。
(だけどそうじゃなきゃ、生きてこれなかった……)
 周りからも、散々心配された。見知らぬ相手と、愛し合えるはずがないと。
 それなのに愛せると、愛されると思い込んで、大丈夫だと言い続けたのは葵だった。
 翼みたいになりたい。そうすれば幸せになれる。生きていていいと思える。
 きっともう淋しくなくなる……。
 そう決めつけている自分を、自分でも、心のどこかではおかしいと思っていたはずだ。ただ、見ないようにしてきただけ。
 脳裏に浮かんだのは、母の顔だった。モデルとして使えない葵を、興味の対象からさっさと外してしまった母。葵が生きていてもいなくても、関心のなさそうな母。道具としてしか、葵を見ていなかった、母。
(俺……ママと同じこと、しようとしてた?)

続きは文庫で読んでくださいね。