響 高綱/作
花小蒔朔衣/イラスト


2015年8月20日
同級生再会
シリーズ名 花丸文庫
作品名 婚姻届と恋の行方
巻数 全1巻
作家名 響 高綱/作 花小蒔朔衣/イラスト
本体価格(税別) 713円
判型 文庫判
内容 大人しく生真面目なサラリーマンの征実は、高校の同窓会でクラスの中心人物で憧れだった和彰と再会した。その和彰に『俺が書いた婚姻届に自分の名前を書き加えた憶えない?』と尋ねられ慌てるが…。
ISBN ISBN978-4-592-87739-4


P40〜P42より抜粋

 「ありがとう、和彰。今日は、すごく楽しかったよ。それで、さ。あの……」
 勇気を出せ、と言い聞かせるように、ひざの上のこぶしをにぎる。別れが避けられないならせめて、つぎにつながる約束だけでも取りつけたいと、必死に言葉を探す。
「もし、よかったら、また会ってくれないかな? 三カ月先でも半年先でも、和彰がヒマを持てあましてるときで充分だから。そうそうヒマじゃないかもしれないけど、ときどき会えたら、うれしいなと思って……」
 昨晩から丸一日を親しくすごしたといっても、やはり征実にとって和彰は、雲の上にいるような、遠くてまぶしい存在だった。漠然とした口約束をかわし、連絡先をやり取りしたいというだけの簡単なことにも、気おくれしてしまう。
「んー……。ときどき会えたら、って言われてもなぁ」
 あまり気乗りのしなさそうな反応に、征実は助手席で肩をすくめた。身の程知らずなことを口走ってしまったなと、後悔が胸にのしかかる。
「俺としては、ときどきじゃなくて征実と毎日顔をあわせていられたら、と思ってたところなんだけど。なあ征実、俺のマンションに引っ越してこないか?」
『え?』と声を漏らしたきりなにも言えず、征実は瞳を見開いて顔をあげ、和彰の横顔を呆然と見つめた。ハンドルをにぎる和彰の視線は、車道から外れない。自分に都合のいい聞きまちがいをしただろうかと、征実は耳を疑った。
「ひ、引っ越しって、僕が? 和彰の、あのマンションに?」
「今朝、征実の泊まった部屋があるだろ? 使わずに余らせておくのもなんだから、だれかとシェアできないかと考えてたんだ。征実が来てくれたら、最高だと思ってさ」
「き、急に言われても、困るよ。一緒に暮らすとなると、軽々しく決められないし」
 これ以上ないほどの激しさで、心臓が跳ねる。深呼吸で落ち着かせようとしても、頭にのぼった血液はますます沸騰していく。
「まあ、そうだよな。だからさ、試しにしばらく住んでみるだけでも、どうかな? 征実が住んでるアパートはそのまま借り続けて、一、二カ月くらい試したあとに結論を出してくれてもいいよ。試験期間中は、シェア分の家賃もいらないから。な?」
「すごく、いい話だとは思うよ。でも、どうして僕なんかに声をかけてくれるの?」
「なにしろ俺と征実は、婚姻届に並んで名前を書かれた仲だから。一緒に暮らしたら、夫婦みたいにうまくやっていけそうな気がしてさ」
『まあ、それは冗談だけど』と言葉をつなげ、和彰がちらりと征実の顔を見て笑う。すっかり終結したと思っていた話題を唐突に蒸し返され、胸の鼓動はさらに速さを増した。
「今日一日、征実と一緒にいてすごく楽しかったから。征実となら、やっていけそうな気がしたのは本当なんだ。あと、小梅が征実を気に入ってる、っていうのもあるな。あいつが気に入った相手じゃないと、同居は無理だから」
「それは、光栄だけど……」
 ふたつ返事で『よろしくお願いします』と言ってしまいたくなる衝動を、征実は必死でおさえた。生活に関わることだけに、感情だけでは決められない。理性的になるべきだ、とは思っても、つい和彰との暮らしぶりを脳裏に描いてしまう。一緒に料理をしたり、リビングでくつろいだりする光景が、甘く征実に誘いかける。

続きは文庫で読んでくださいね。