樋口美沙緒/作
街子マドカ/イラスト


2015年8月20日
擬人化寝取り
シリーズ名 花丸文庫
作品名 愛の本能に従え!
巻数 全1巻
作家名 樋口美沙緒/作 街子マドカ/イラスト
本体価格(税別) 787円
判型 文庫判
内容 目立たないことが取り柄のナナフシ出身の歩は、性の異形再生に失敗し、一族から見放されてしまう。そんなある日、寝とり癖のあるトラブルメーカーで、オオムラサキ出身の大和と同室になることに……!?
ISBN ISBN978-4-592-87738-7


P102〜P104より抜粋

 「やー、大和。今日は黄辺の誘惑に勝ったって? 久しぶりに僕の負けだね」
 ニコニコと声をかけてきたのは志波だった。大和はあからさまに志波を睨みつけている。
「久史、黄辺にも言ったけどな。オオムラサキなら他にもいる。寝取ったり寝取られたりしたいなら、他を当たれ。俺はウンザリなんだよ」
「ウンザリしてる大和が、嫌々僕から寝取るっていうのがいいんでしょ。……それより聞いたよ。黄辺をはね除けたとき、かわいい双子といたんだって?」
 志波が眼を細め、試すように大和を見る。大和はすぐに「あいつらは関係ねえよ」と言い、志波も「だろうね」とニッコリした。
「黄辺は気付かなかったみたいだけど、その場にいたんでしょ? あゆちゃん」
 歩の心臓がドクンとはねる。気がつくと、体を小さくしていた。隠れたい、という気持ちが久しぶりに全身を駆け巡る。そのおかげか、大和の後ろに潜んでいる歩には、志波は気付かなかった。大和は眉をひそめ、舌打ちした。
「おい、気安く名前呼ぶんじゃねえよ。あいつが汚れるだろうが」
 その言葉に歩は眼を丸くしたが、志波も「汚れるって」と苦笑している。
「あゆちゃんてなによ。天使なの?」
「呼ぶなっつったろ。お前の舌で毒される」
 ついさっき過保護と称した双子のようなことを言い、大和が志波を睨みつけた。
「……ゲスいこと考えてるんだろうけどな。あいつに手を出したら、さすがに殺すぞ」
 低い声には本気が混じっていて、歩は息を詰めたが、志波は面白がっていた。「愛着でも湧いたわけ?」と眼を細める志波に、大和が七安は、と続けた。
「俺たちとは違う。あいつとは、セックスしたくない」
 きっぱりという大和の声は真剣だった。
 ──セックスしたくない。
 そのとき心の奥に、なにか言葉にならない重たい感情が押し寄せてきた。 
 聞いた志波の顔からは、すうっと笑みが消えていく。まるでつまらないものを見るように大和を眺め、「ふうん」と肩を竦めた。
「俺たちと違う、ね……。どう違うか知らないけど、いい加減本能に抗うの、やめたら?」
 僕らオオムラサキはさ、と、志波が呟く。
「愛してるって言った一秒後に、他の相手を抱いてる。そういう種だろ」
 言われた大和が、ぐっと言葉に詰まっているのが分かり、歩は息を止めた。
「普通に恋愛しようなんて思ってないよね? 本能と愛の区別もつかないくせに」
 ──本能と愛の区別もつかない……。
 志波は冷たく言いのけると、興味をなくしたように立ち去っていった。奇妙な不安に駆られて、歩の胸が高鳴る。

続きは文庫で読んでくださいね。