川琴ゆい華/作
北上れん/イラスト


2015年6月19日
激甘ウブ受け
シリーズ名 花丸文庫
作品名 糖酔バニラホリック
巻数 全1巻
作家名 川琴ゆい華/作 北上れん/イラスト
本体価格(税別) 657円
判型 文庫判
内容 カフェに勤める、ハイスペックモテ男子・柊木。同僚に春が来て寂しがっているところ、コミュ障ぎみの小動物系男子と知り合って……。
ISBN ISBN978-4-592-87737-0


P106〜P110より抜粋

 誕生日パーティー当日。頼朋宅から現れた男に「あれっ」と梓真は声を上げた。
 なぜか、『チェリーレッド』のお向かいにあるショコラトリー『リリアン』のイケメンショコラティエが登場したからだ。
 部屋を間違ったかとうしろを振り返ると、建斗は「おつかれ」と彼に軽い挨拶をする。
 店の前を通るときにちらっとしか見たことがなくて、初対面だ。あわわ、と慌てている梓真に、貴族みたいに上品なイケメンショコラティエは「どうぞ」と微笑んで、招き入れてくれた。
「いらっしゃーい」
 頼朋が顔を覗かせて「あの辺に適当に座ってて」とソファのほうを指さした。
「ショコラティエ、さん……ですよね……?」
「お向かいのショコラトリー『リリアン』の由利高晴と申します」
 すっと名刺を出されて受け取り、名刺を持参していないことを詫びた。普段人と会わないから、財布に一枚も入れていないのだ。そもそもここに、頼朋と建斗以外の人がいるとは想定外だった。
「え、……お三人さんは、親しい間柄でいらっしゃる……んですか?」
 ぎくしゃくと問う梓真に、高晴はすっと目を細め、柔らかな笑みをこぼす。
 建斗の誕生日パーティーに集まった面子。毎日たった一時間程度とはいえ、カフェに梓真が足を運んでいた間、高晴の話題は出たことがなかった。
「親しいっていうか……なぁ」
 建斗が高晴に呆れ気味の顔を向けている。
「頼朋さんの口から最近よく聞く『ぎゃんかわ♥の梓真くん』とはどんな男性なのかと思ってました。こうしてお会いできて光栄です」
「……はあ、……」
 どう返したらいいのか困惑して声が萎んだ。なんだかよく分からないが、端麗な顔立ちに笑みを浮かべ、物腰は柔らかなのに威圧感がすごい。背が高いからだろうか。
「親しいというより、頼朋さんは、僕にとって生涯でたったひとりの情人です」
「じょうにん?」
 常任理事国を最初に思い浮かべる梓真に、建斗が「恋人!」と面倒くさそうに説明した。
「こっ、恋人っ? えっ、えっ?」
 きょろきょろすると、高晴がドヤ顔で「頼朋さんと、僕が、です」と嬉しそうに答える。
 ──じゃあ……建斗さんと頼朋さんは、心配するような関係じゃない?
「高晴ー、お前、料理出す前に爆弾落とすなって!」
 頼朋がキッチンから喚いている。
「梓真にまで敵意丸出しで見苦しいったらないよな、まったく。ずっと一日中一緒にいるけど、ヨリはお前以外は愛してないから安心しろ」
 建斗のフォローに「えーっ、俺は建斗のことは好きだってば!」と頼朋の声が届く。
「混ぜっ返すな、ヨリ!」
 梓真は三人のやり取りを突っ立ったまま茫然と見守った。
「あーもうほら、梓真がびっくりしてんだろ。免疫ないんだから順序立てて話そうって思ってたのに」
 建斗に手を引かれて、ふらふらとついていき、ソファにぽすんと座らされた。建斗は梓真に並んで腰掛ける。
「高晴はさ、十有余年もの長ーい間、頼朋だけを妄愛している変態なんだ」
「……変態?」
「そう。ヨリの壊れたシャープペンも制服もジャージもジュースの空き缶だって、可能な限り全部自分のものにしなきゃ気がすまない。隠し撮りした写真、タウン誌の小さなインタビュー記事、すべてを一部屋潰して保管してる。しかもそれをヨリトモって名付けた番犬に守らせてんだぜ。ちなみに高晴はヨリに確実に近づくために、『チェリーレッド』の向かいに店を出して、ここのお隣に引っ越してきたんだ」
「……ス、ストーカーじゃないですか」
 顔を強張らせながら問うと、建斗はとても真面目な顔つきで「変態ストーカーだ」と頷いた。
 恐る恐る振り向くと、ふたりは何やら仲睦まじく料理の味見をし合っているではないか。
「……仲良し、に見えます」
「だから恋人なんだってば。変態ストーカーが付き纏って追いかけ回して命がけで愛しまくって、最後にねばり勝ちしたんだ。高晴は危害を加えたり法を犯したりするような男じゃないからその点は大丈夫だけど、あんまり梓真がヨリとキャッキャウフフしたら、夜に……ヨリがたいへんな目に遭う」
「夜?」
 どきんとした。まさか、と思いつつ、口に出せない。
「ねちっこいえっちするらしい」
 いきなり背後から「ブッブーッ!」と頼朋の手刀が建斗の頭の天辺に炸裂した。
「建斗ー、梓真くんにいらん刺激を。ごめんな、ホモの巣窟にお招きしちゃって」
「俺まで一緒くたにするな」
 迷惑そうな顔で頼朋に文句をつけている建斗をぼんやり見つめる。それから梓真は、テーブルに料理を用意している頼朋と高晴のほうへ視線を向けた。
「建斗さんは……あのおふたりの関係を……」
「俺はあいつらの繋ぎ役で、焚きつけ役で、お目付け役」
 建斗は迷惑そうに顔を顰め、でも笑っている。
 頼朋と建斗の仲の良さを羨ましいと思っていたけれど、頼朋のほうにちゃんと恋人がいた。しかも建斗は「ヨリはお前以外は愛してないから安心しろ」と言って、ふたりのフォローに回っている。
 建斗は頼朋を友だち以上には想っていない。なんだ、よかった、といっぺんに心が軽くなった。
 梓真、その人に恋してんだね──レニオに言われた言葉がふと頭に浮かぶ。
 建斗と頼朋の間に何もないのだと知ってほっとするなんて。これが恋の感情なんだろうか──手元のペーパーバッグをぎゅっと握る。
 建斗はさっき頼朋に「俺まで一緒くたにするな」と言った。
 このプレゼントは特別な気持ちがこもったもの、と建斗には受け取られないようにふるまうべきな気がする。

続きは文庫で読んでくださいね。