樋口美沙緒/作
高階佑/イラスト


2009年1月20日
シリーズ名 花丸文庫BLACK
作品名 愚か者の最後の恋人
巻数 全1巻
作家名 樋口美沙緒/作 高階佑/イラスト
判型 文庫判
内容 惚れ薬を飲まされ、雇い主で貴族のフレイに恋してしまった使用人のキユナ。誰にでも愛を囁く節操なしのフレイのことが大嫌いだったはずなのに、面白がって悪戯されてもその手を拒めなくて……。
ISBN ISBN978-4-592-85042-7


P45〜P46.より抜粋

「今日出会った美女も極上の金髪だったぞ」
 フレイの弾んだ声に、キユナは胸が痛んだ。自分でも気づかぬうちに薄い肩がしょんぼりと落ちて、そうですか、と打つ相槌が弱々しくなる。
「…じゃあ、フレイ様は楽しんでいらしてください」
「いつものように、寝所の外で見張ってくれるか?」
「……っ」
 声が出ず、ただ空気のような音が喉からもれた。いっぱいに見開いた大きな眼が潤んだ。鼻の奥がつんとすっぱくなる。途端にフレイが嘘だよ、と優しく囁いた。
「……嘘だ。そこまで残酷じゃない」
「俺は、べつに、なにも思ってなんか……」
 声が震え、続けられなくなった。フレイが厚い胸をそっと寄せ、欄干に手をつく。キユナはフレイの腕の中へ閉じこめられていた。フレイは広い肩を揺らし、ふっと微笑んだ。微笑に、優しげな目許がいつも以上に甘くなる。
「お前は恋をしていても、本当に可愛くないな。ちっとも素直じゃない。生意気で、情が冷たくて、面白くなくて──……」
「どうせ俺は、フレイ様の好みじゃ……ありません」
 泣きたい気持ちになり、キユナは長い睫毛を震わせた。それを見られたくなくて、顔を俯ける。頭の上で、フレイはまた「嘘だよ」と囁く。
「嘘だよ。可愛いよ。俺に恋をしているお前は、とても可愛い。すごく可愛い。可愛くて、どうにかしてやりたいくらいだ」
 突然広い胸に抱きすくめられ、唇を奪われた。キユナはびくりと細い体を縮めた。開いた歯列の隙間から、分厚いフレイの舌が入り込んできて口内をくちゅくちゅと舐めあげる。フレイにキスをされている。そう思うと甘い感覚がぞくぞくと背を這いあがってきたが、残った理性を掻き集めキユナは首を振ってフレイの唇を振り払った。

続きは文庫で読んでくださいね。